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与謝野晶子の詩歌(十三)。君への愛を歌う。『みだれ髪』と『白桜集』。

 20世紀の冒頭から半ばまで、ゆたかな詩歌を創りつづけた女性、与謝野晶子の作品をみつめつつ詩想を記してきました。 与謝野晶子は生涯を通じて社会評論の他に、文学作品として詩や童謡など、とても豊かな詩歌を生み続けたことを、あまり注目されなかった視点を主にして記してきました。 最終回の今回、彼女自身も、また周囲も評価してきた歌人としての作品、短歌をみつめます。 今回彼女の第一歌集『みだれ髪』全篇と、生涯に...

与謝野晶子の詩歌(十二)。押韻小曲。自由詩の音楽の試み。

 20世紀の冒頭から半ばまで、ゆたかな詩歌を創りつづけた女性、与謝野晶子の作品をみつめつつ詩想を記しています。 今回は与謝野晶子の詩を見つめる最終回です。「小鳥の巣(押韻小曲五十九章)」について、日本語の口語自由詩に押韻により音楽性をもたせようとした彼女の試みを作品を通して感じとります。  五十九ある小曲から私の好きな作品を選びました。全体の特徴を挙げると、① いづれも全5行の短い詩で、すべての詩行は...

与謝野晶子の詩歌(十一)。自由詩は詩歌?行分け散文?

 20世紀の冒頭から半ばまで、ゆたかな詩歌を創りつづけた女性、与謝野晶子の作品をみつめつつ詩想を記しています。 今回は、短歌という短詩形を書き続けた言葉による芸術家としての彼女の横顔を見つめます。 晶子のさまざまな主題をとりあげた詩をみつめてきて、私は晶子が短歌と詩との形のちがいを意識したうえで、主題にふさわしい詩形で歌っていた、短歌と詩を歌い分けていたと感じます。短歌には歌い込めない雑多な主題、短...

与謝野晶子の詩歌(十)。8、8、8、8、……

 20世紀の冒頭から半ばまで、ゆたかな詩歌を創りつづけた女性、与謝野晶子の作品をみつめつつ詩想を記しています。 今回は、晶子が短歌と詩の違いをどのように感じてそれぞれの作品を生みだしていたのかを少し考えてみます。 詩「詩に就《つ》いての願《ねがひ》」は、作品というよりも、創作のための覚書とも受けとれます。 そこで晶子は、詩における行と節(詩行のかたまり、連のこと)意識していることが伺えます。 短歌の...

与謝野晶子の詩歌(九)。子ども心、ときめきの歌。

 20世紀の冒頭から半ばまで、ゆたかな詩歌を創りつづけた女性、与謝野晶子の作品をみつめつつ詩想を記しています。 今回は晶子の子ども心の詩、子どものための詩です。 前回まで詩のかたちでの、多様な主題についての、表情がとても豊かな、変化と創意に富んだ作品たちを見つめてきました。 心豊かに深く詩歌を愛する優れた詩人に共通しているのは、童心、子ども心を生涯失わないことです。晶子がその一人であることを、私はと...

与謝野晶子の詩歌(八)。喜怒哀楽の潮騒を歌にして。

 20世紀の冒頭から半ばまで、ゆたかな詩歌を創りつづけた女性、与謝野晶子の作品をみつめつつ詩想を記しています。 今回は晶子の生活者としての表情がにじむ、母親としての心情を吐露した2篇の詩です。 短歌だけで晶子をしっているつもりでいた私にとって、詩のかたちで、このように自分の生活の様子を歌っていることがわかったことは、驚きでもあり、新鮮でもあり、喜びでした。 歌人も詩人も人間です。喜び、楽しみ、悲しみ...

与謝野晶子の詩歌(七)。語りかける愛の言葉。息子に。母に。

 20世紀の冒頭から半ばまで、ゆたかな詩歌を創りつづけた女性、与謝野晶子の作品をみつめつつ詩想を記しています。 今回は、晶子が優れた愛の詩人だと感じる2篇の作品です。 短歌では第一歌集の『みだれ髪』で異性・鉄幹への愛を情熱的に歌いあげた作品群と、遺稿集で亡くなった鉄幹へ静かに呼びかける鎮魂の愛の歌の作品群がとても美しく、強く心をうたれます。  短歌のかたちではあまり歌わなかった(自選歌集にはありませ...

与謝野晶子の詩歌(六)。其中に女の私もゐる。

 20世紀の冒頭から半ばまで、ゆたかな詩歌を創りつづけた女性、与謝野晶子の作品をみつめつつ詩想を記しています。 今回は社会におかれた女性の位置を意識した批評性のある詩です。晶子は女性の社会的な立場や生き方について、積極的に評論を書き続けました。評論は直接的に意見を表明し、論理と熱意で納得させ、その意図する方向へ世論を導こうとする表現です。 いっぽうで文学は論理であらわせないもの、結論のないもの、生活...

与謝野晶子の詩歌(五)。この社会の向こうに。

 20世紀の冒頭から半ばまで、ゆたかな詩歌を創りつづけた女性、与謝野晶子の作品をみつめつつ詩想を記しています。 今回は政治と社会を主題にした2篇の作品です。 詩「駄獣《だじう》の群《むれ》」は、大日本帝国憲法下の議会と政治家についての、直接的な批判です。 詩歌は感動から生まれ、人としての感情を伝えることができる表現手段です。不正に対する怒りもそのひとつだと私は思います。 この作品で次の詩行が私には痛...

与謝野晶子の詩歌(四)。詩と戦争。

 20世紀の冒頭から半ばまで、ゆたかな詩歌を創りつづけた女性、与謝野晶子の作品をみつめつつ詩想を記しています。前回は彼女の詩「君死にたもうことなかれ」と「ひらきぶみ」を通して詩の本質について考えました。 彼女が生きた時代には、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦(日中戦争、太平洋戦争)を日本の国家はおこしました。 今回初めて私は、日露戦争の際の詩「君死にたもうことなかれ」の後に、晶子が...

与謝野晶子の詩歌(三)。まことの心をまことの声に。

 20世紀の冒頭から半ばまで、ゆたかな詩歌を創りつづけた女性、与謝野晶子の作品をみつめつつ詩想を記しています。 今回は彼女の詩「君死にたもうことなかれ」に対する似非詩人の批判に対して、詩歌の本質を示し応えた激しく美しい文章「ひらきぶみ」です。 日露戦争の戦地、旅順へ応召された弟への手紙に書き添えたという詩「君死にたもうことなかれ」は、日本近代詩以降の作品のなかで深く心に訴え続ける力のある優れた作品だ...

与謝野晶子の詩歌(二)。自然分娩のように。大切な子ども。

 20世紀の冒頭から半ばまで、ゆたかな詩歌を創りつづけた女性、与謝野晶子の作品をみつめつつ詩想を記しています。今回は彼女の、出産を主題にした二篇の詩です。 与謝野晶子は12人の出産をして11人の子どもを育てました。子沢山の時代とはいえ、すごい、と思わずにいられません。 一篇は出産直前の女性の心の詩、もう一篇は出産後の女性の心の詩です。 有無を言わせぬ切迫した言葉には、命を生むということの、畏怖と厳粛さ、...

与謝野晶子の詩歌(一)。心から歌いたくて。感動を。

 地球も、太陽をつつむ天の川銀河も、うごいている、ひとの鼓動も、こころも。 それが、時なのでしょうか。 昔は幼く「正月はきらい」などと反発したりしたけど、暦に時のうごきを感じ、伝えあうのは大切なのだと思います。 今回からしばらくの間、20世紀の冒頭から半ばまで、ゆたかな詩歌を創りつづけた女性、与謝野晶子の作品をみつめつつ詩想を記していきます。 彼女は社会評論でも活躍しましたが、文学としての詩歌に限っ...

Appendix

プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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