アイヌの豊かな世界観と文化を知里幸惠の『アイヌ神謡集』を中心に考えてきました。彼女と通じ合う思いを抱いて、
アイヌとしての誇りと魂を歌いあげた三名の方の作品を、
『現代アイヌ文学作品選』から摘み、ここ「愛(かな)しい詩歌に咲かせます。私が良いと感じるままに選びました。これらの花たちの歌声はそのまま作者の思いと共に風に揺れている、と感じます。(作者の経歴や時代背景については、川村湊の解説で理解が深められます。)
初回の今回は、静かに優しいおもかげの底から、芯の強さ思いの強さが心にしみてくる、
バチェラー八重子(1884年~1962年)の作品です。
アイヌの言葉をカタカナに拾った作品、日本語を交えた作品に、彼女がその思いを作品化するときに、言葉を強く意識していて、読者に問いかけていることを感じます。優しく美しい魂のふるえが響いてくる作品だと私は感じます。
『若きウタリに』から
ウタシパノ ウコイキプウタリ レンカプアニ アイヌピリカプ モシリアエケシケ
*ウタシパノ、相互に。ウコイキプウタリ、相争闘する人々。レンカプアニ、の為に。アイヌピリカプ、人々の善良なる者。モシリ、国。アエケシケ、に尽く。「互に争う人達の為に、善良なる人々が国土の上に跡を絶つか!」ウタシパノ ウコヤイカタヌ ピリカプリ 忘るなウタリ 永久(とこしへ)までも
*ウコヤイカタヌ、互に尊敬し合う。ピリカプリ、善良なる風・醇風美俗。ウタリ、同族・同胞・人々。野の雄鹿 牝鹿子鹿の はてまでも おのが野原を 追はれしぞ憂き
*(ののおじか めじかこじかの・・・)貧しくも コタン愛して 働らかむ 父母たすけ 兄を助けて
波を見て 大いなりとすな 海を思ひ 大きく持たれ ウタリ心を
*ウタリ心(ウタリごころ)、同族心・同胞心。死人さへ 名は生きて在る ウタリの子に 誰がつけし名ぞ 亡(ほろび)の子とは
曙の 娘となりて ウタリをば 明るくしませう 永久(とこしへ)までに
太陽を 愛したたへし ウタリなり 心に受けよ 愛の光を
太陽姫(チュプカムイ) み空にいます 明々(あかあか)と白衣(びゃくえ)まとうて ウタリの上に
*太陽姫チュプカムイは、天の最高神のおとむすめ。
隙間もる 風も寒かる 山里の 貧しきウタリ 思はるるかな
過ぐる日は のどけくありし トットモシリ 今は憂(うれひ)に とざされにけり
*トット、母。モシリ、国。トットモシリは、即ち郷国。亡びゆき 一人になるも ウタリ子よ こころ落とさで 生きて戦へ
星の如(ごと) さやけき瞳 持ちしウタリ 曇りがちなり 今日此頃は
幼くて こよなき友と したしみし あの湧き水ぞ 今も恋しき
目に触ぬ 神も住まはむ 有珠(うす)コタン 今も昔も 何時(いつ)の世までも
*有珠コタン、有珠村砂浜に 赤く咲きたる ハマナスの 花にも似たる ウタリが娘
出典:
『現代アイヌ文学作品選』(川村湊編、2010年、講談社文芸文庫)(出典の底本:
バチェラー八重子『若きウタリに』(1931年、竹柏会)
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