万葉集巻第五山上憶良ヤマノウエオクラ904
男子(をのこ)名は古日(ふるひ)に恋ふる歌三首(九句目から)
(あ)が子古日は 明星(あかぼし)の 明くる朝(あした)は しきたへの 床(とこ)の辺(へ)去らず 立てれども 居(を)れども ともに戯(たはぶ)れ 夕星(ゆふつづ)の 夕(ゆふべ)になれば いざ寝よと 手をたづさわり 父母(ちちはは)も うへはなさかり さきくさの 中(なか)にを寝むと 愛(うつく)しく しが語らへば(略)夕星のよみは万葉集時代は「ゆふつづ」「ゆふつづ」、近世から「ゆふづつ」
【訳】夕星の出る夕方になると、「さあ寝よう」と手にすがりつき、「父さんも母さんもそばを離れないでね。ぼく、まん中に寝る」と、かわいらしくもそいつが言うので(角川ソフィア文庫、伊藤博訳)
万葉集巻第第五最後のこの山上憶良「古日に恋ふる歌」は亡くなった幼子への悲しい鎮魂歌です。
夕星
一番星、宵の明星、金星です。
万葉集の憶良の「古日(ふるひ)のうた」は、ゆふつつ、または、ゆふつづ、と読まれています。
近世以降は、ゆふづつ、ゆうずつ。
古語、死語に、消えいりそうな夕暮れの空にちいさく美しく、良い響きで、瞬いています。
古代ギリシアの女性詩人、サッポオの優しい詩と、時代を超えて、瞬きあっているようです。
サッポオ(一二)
夕星(ゆふづつ)は、
かがやく朝が八方に
ちらしたものを、
みな もとへ
つれかへす
羊をかへし、
山羊をかへし、
母の手に
子をつれかへす「ギリシア抒情詩選」(呉茂一訳、岩波文庫)
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