久しぶりに、好きな詩の紹介をします。
『高村光太郎全詩集』(新潮社、1966年)を古本屋で入手して、分厚いので持ち出しては読めず、時間を見つけては読み進めていて、戦時の詩集についてもまた考え直してみたいと考えています。
今日紹介する詩「母におもうふ」は、これまで記憶していた詩ではなくて、今日読んでいていいなと、心に感じた詩です。確かめてみると、
新潮文庫の『高村光太郎詩集』にも収録されていたので、私の心持ちのせいかもしれませんが。
1927年、光太郎45歳の時に書かれた、解説のいらない、彼の詩人としての個性の、詩心の良いところから響いてくる、好きだと感じる詩です。
詩は文学作品であり、調書でも告解でもないので、書かれている事柄が実際にあったことそのままか、幻か、虚構かが重要なのではないと私は考えています。
書かれている事柄や、記された気持ちや思いを、読む人が「これって、本当だ、真実だ」と感じとれる何かを響かせて、共感を呼び起こし心ふるわせてくれる、それが詩作品にとってなくてはならないものです。
人との共感や愛情が偶然の出会いを通してうまれるように、読む人の心、いつ読むかという心の状態によっても、詩作品への感動の強さは変わってしまいます。だからこそ、文学を読むことは、生きることそのもののようにも、感じられるのだと私は思います。
光太郎の詩「母に思ふ」に私は素直に感動します。今日は「母の日」ではありませんが、心のうちでは毎日が母の日であっていいと思っていますから、今日記します。
母をおもふ夜中に目をさましてかじりついた
あのむつとするふところの中のお乳。
「阿父(おとう)さんと阿母(おかあ)さんとどつちが好き」と
夕暮の背中の上でよくきかれたあの路次口。
鑿(のみ)で怪我をしたおれのうしろから
切火(きりび)をうつて学校へ出してくれたあの朝。
酔ひしれて帰つて来たアトリエに
金釘流(かなくぎりう)のあの手紙が待つてゐた巴里の一夜。
立身出世しないおれをいつまでも信じきり、
自分の一生の望もすてたあの凹(くぼ)んだ眼。
やつとおれのうちの上り段をあがり、
おれの太い腕に抱かれたがつたあの小さなからだ。
さうして今死なうという時の
あの思ひがけない権威ある変貌。
母を思ひ出すとおれは愚にかへり、
人生の底がぬけて
怖いものがなくなる。
どんな事があらうともみんな
死んだ母が知つてるやうな気がする。
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『詩集 こころうた こころ絵ほん』は2012年
3月11日、
イーフェニックスから発売されました。A5判並製192頁、定価2100円(消費税込)です。
イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
こだまのこだま 動画 ☆ こちらの本屋さんは店頭に咲かせてくださっています。
八重洲ブックセンター本店、丸善丸の内本店、書泉グランデ、紀伊国屋書店新宿南店、三省堂書店新宿西口店、早稲田大学生協コーププラザブックセンター、あゆみBOOKS早稲田店、ジュンク堂書店池袋本店、紀伊国屋書店渋谷店、リブロ吉祥寺店、紀伊国屋書店吉祥寺東急店、オリオン書房ノルテ店、オリオン書房ルミネ店、丸善多摩センター店、くまざわ書店桜ケ丘店、有隣堂新百合ヶ丘エルミロード店など。 ☆ 全国の書店でご注文頂けます。
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