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まりもの歌。伊賀ふでさんの詩(三)。

 アイヌ民族のこころを伝えようと懸命に生きた二人の女性、母と娘の豊かな詩作品集を紹介し、感じとってきました。
 前回に続き、詩集『アイヌ・母(ハポ)のうた―伊賀ふで詩集』(2012年4月、現代書館)を読みとります。
 著者は伊賀ふでさん、チカップ恵美子さんの母です。編集は詩人の麻生直子さんと、北海道新聞社編集局写真部の植村佳弘さんが、心を込めとても丁寧に編んでいらっしゃいます。

 今回は伊賀ふでさんの、日本語の詩を見つめ、アイヌの二人の女性詩人についての詩想のまとめとします。
 
 最初に、4行の短い詩ですが、伊賀ふでさんが詩心ゆたかな詩人だと感じる詩を引用します。この詩には、娘のチカップ美恵子さんの詩「キトビロを摘む」と通いあう柔らかな抒情がそよ風のように揺れていると私は感じます。

   日本語詩

    

  鈴蘭と
  ねじれ花咲く
  あの丘は
  思い出の土地
  人恋ふた丘


 詩心を抱く人が詩人ですが、詩人はまた言葉で心を美しく表現する人です。
 伊賀ふでさんのアイヌのウポポ(歌舞詩)意訳詩に私は彼女の言葉の音に対する感性の鋭敏さを感じます。

 次のウポポは、アイヌの歌詞の言葉の響きと、日本語の響きは異なっていて似ていません。逆にそのことが、この詩人がアイヌの言葉の響きを繊細に感じとったうえで、その響きにもっともふさわしい、もっとも響きあう日本語の音を選んで、詩の音楽、歌を紡ぎ出していると、教えてくれます。

 作品「霧とカムイ」の日本語の意訳詩の言葉の音楽はとても美しいです。
「ゆらゆら」「ゆれて」「ゆりかご」「行(ゆ)く」「夢」「浮(u)かぶ」と、「yu」「u」というやわらかなまるみをおびた音を詩行にゆらめかせ、浮かび沈みさせています。幻想的ではかない情景と心象と音が美しく詩のうちに溶け合っています。

    霧とカムイ

  ウララ シュウエ
  エカムイ シンダ
  アートゥエ トゥンナ
  エトゥヌン パエー

  霧が ゆらゆらゆらとゆれて
  エカムイ(雷神)が 美しいゆりかごに乗り
  海のかなたへ 消えて行く
  いまのは夢か まぶたのそこに浮かぶ

 詩人である伊賀ふでさんは、迫害され続けたアイヌのひとりとして、誰よりも深く心痛め、心鋭く裂かれ、生活し、生き、ノートに詩を書きとめました。彼女は悲しみと苦しみそのままの、日本語の詩を残しています。短く引用します。
 娘の美恵子についての詩句、亡き母にすがりつくような詩句に、込められた母の思い、娘としての思いが悲しく、心打たれます。

    詩「涙の小川」
   (略)
  小川の果てる頃はきっと
  子らや兄妹たちが/明るい灯をともし
   (略)

    詩「苦い薬 苦い涙」 (最終2行)

   (略)
  無邪気な子どもには 罪がない
  苦い涙を流し 母の心誰しるや

    詩「お先はまだみえず」(最終4行)

   (略)
  しっかりせいよ ふで ふで
  目をつぶって 歯を食いしばる
  痛いよ こたえるよ
  なつかしのいまは亡き母にうったえる

 伊賀ふでさんが日本語で書いた詩のなかで、私が一番好きな詩を最後に引用させて頂きます。
「アイヌ語と日本語の対訳詩」の日本語詩ですので、アイヌ語の詩はぜひこの詩集でお読み頂けたらと願います。
 優しい詩心、ゆたかな抒情がゆれ、言葉の音楽がとても美しい歌です。アイヌの世界観と願いと祈りで織りあげられたこの詩を私はとても好きです。

    トウラ サンペ:まりもの歌 

  空の色のように青く
  まるいまるいまりもさん
  いまでは都でも村でも
  知らない人はありません
  外国人も内地人も
  たからもののように尊んで
  まりもはいいわね
  歌にうたわれ 美しく
  みんな歌ってくれますね
  お天気がよければ湖に顔を出し
  ああ 私もなりたい まりもに
  美しいまりも
  うらやましい
  永い浮世を永久に
  百年 千年 何万年
  清くりりしく生きていてね

 伊賀ふでさんの詩心、美しい詩と木魂する私自身の詩をここにリンクします(クリックしてお読み頂けます)。呼び合う声を聞きとっていただければ、とても嬉しく思います。

  詩「まりものゆらら」 < (詩集『愛のうたの絵ほん』から)

 木魂を聞きとってくださった方の心のひろがりは、伊賀ふでさんとチカップ美恵子さんが生涯をかけて伝えようとされた、アイヌの美しい景色、鈴蘭が咲く丘へとつながっていると私は思います。
 二人の愛(かな)しい詩が、まりものように、いつまでも美しく、心に揺れる歌であり続けますように。
 ☆ お知らせ ☆
 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2100円(消費税込)です。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
 ☆ こちらの本屋さんは店頭に咲かせてくださっています。
 八重洲ブックセンター本店、丸善丸の内本店、書泉グランデ、紀伊国屋書店新宿南店、三省堂書店新宿西口店、早稲田大学生協コーププラザブックセンター、あゆみBOOKS早稲田店、ジュンク堂書店池袋本店、紀伊国屋書店渋谷店、リブロ吉祥寺店、紀伊国屋書店吉祥寺東急店、オリオン書房ノルテ店、オリオン書房ルミネ店、丸善多摩センター店、くまざわ書店桜ケ丘店、有隣堂新百合ヶ丘エルミロード店など。
 ☆ 全国の書店でご注文頂けます。
    発売案内『こころうた こころ絵ほん』
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    詩集 こころうた こころ絵ほん
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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