『日本の詩歌28 訳詩集』(解説・鑑賞は河盛好蔵、安藤一郎、生野幸吉。1969年、中央公論社)を読み、西欧詩の翻訳と、明治以降の日本の新体詩、文語定型詩、口語自由詩のかかわりについて考えています。
著名な翻訳詩やとても良い詩がいちめんに咲き乱れている野原を散策できたので、心に焼きついた詩を少しだけ紹介します。
まず、
堀口大学訳詩集『海軟風] (1954年昭和29年)の収録作品から、アリエット・オドラ(1897‐1962)の詩を一篇。
私は今回読むまでこの詩人と詩を知りませんでしたが、もう一篇の
詩「あたしたちは湖の……」とともに、とても良い詩だなと感じて好きになりました。
父もなく…… アリエット・オドラ 堀口大学訳
父もなく母もない小さなものたちよ、
あなた達はまるっきり孤児(みなしご)だとも言ひきれない、
たとへ地の上に、ひとりぼつちのやうに見えはしても。
口にこそは出さないが、ひとりの人間が
今この日ぐれ時、あなたたちの為めに心を痛め
あなた達をいとしがり、あなた達を抱きかかへ
眠らせて、揺籃の中にねかせてあげ
麻のシイツをかけてあげ
白いお舟のやうにして、夢みごこちにしばらくみとりをしてあげて
あなた達の手の中に何やらものを握らせて
さて遠のいて行くのです。
それは寝ざめに、あなた達が見出すもの
気が向いたら毀(こは)してもかまはない
面白まぎれに傷けても、明日(あす)はまたなほして貰へる便利な、素敵な玩具(おもちゃ)です。
あそぶがよい、それはあなた達の為めのものだから
破いてごらん、何でもないと気づくでせう。
使ふがよい。それは心なの。それはあたしの心なの。
もう一つの訳詩集はとても独特な、
井伏鱒二の『厄除け詩集』(1937年昭和12年)です。私は
漢詩をもっと理解したいと思いつつ、少しもできていませんが、この訳詩集を読むと、誰でも好きになれる気がします。
勧酒(酒を勧(すす)む) 于武陵(うぶりょう810‐?) 井伏鱒二訳
コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトヘモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ
翻訳詩は
訳詩者の人間味が滲んだしている作品だということをよく教えてくれます。
次回からは、これらの優れた翻訳詩の影響を受けながら生み出されてきた日本の、新体詩以降の近代詩を生み出してきた詩人たちの歩みを見つめていきたいと考えています。
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