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新体詩をめぐる詩想

 今回は、新体詩、近代詩についての雑感です。
『日本の詩歌2 土井晩翠、薄田泣菫、蒲原有明、三木露風』(1976年、中公文庫)を通読しましたが、正直なところ苦しい読書、勉強でした。感動した詩、とても好きな詩を見つけたら、そっと摘んで言葉を添えて咲かせようと思っていたのですが。今できること、読みながら、想い、考えたことを記録しようと思います。

 この四人の詩に、素直に共感できなかった一番の理由は、文語で書かれているからだと思います。私には文語を読み理解する基礎能力がないためです。漢文の素養が欠けていることも影響していると感じます。
 そうではあっても、集中に咲いている可憐な抒情小曲を見つけると、詩はかわらないなあ、好きだなと、立ち止まる憩う時間を見つけられたことは、嬉しく感じました。 
 以下は雑感を、浮かんだままに書き留めます。

1.時代と詩人
① 明治30年代、1890年から1910年くらい、今から約100年前に活躍した詩人たちだということ。既に50年近く生きた私にとってはそんなに遠い時代の詩人ではない。
② 20代、30代前半に詩の創作・活躍時期が集中している。薄田泣菫は散文しか書かなく(書けなく)なった。蒲原有明は『有明集』が詩の潮流の分岐点(自然主義、口語自由詩)で黙殺・評価されず詩作を中断した晩年の口語詩はよいと思う。
③ 島崎藤村が散文、小説家に転じたのと同じく、詩と年齢について考えさせられる。その意味では、老齢まで生涯詩人として書き続けた高村光太郎、詩と散文の境界を凝視しながらやはり詩人の魂を表現した萩原朔太郎は、資質的に本来の詩人なのだ、詩人でしかありえなかったのだと思うし、私もそうありたい。
④ 『明星』はやはりこの時代を引っ張ったと感じる。与謝野鉄幹は詩人としての作品の魅力は乏しいが、批評家としてとても優れている。『早稲田文学』の若者たちの自然主義の潮流を背景にした主張は、実作の実りは乏しくすぐ衰えたが、批評性には光るものがあったと感じる。蒲原有明に詩人が嫌いになったと回想させた、噛みつきなど。真率な批評を交わすことはとても良いこと。今そのような批評が欠けている。詩を書く年代層の高齢化が影響していると思う。

2.文語
① 文語と口語の断絶は大きい。古文は初めから古語辞典を片手に読み解く対象と思うけれど、文語はわかるようでわかっていない、基本文法・言い回しを正確には知らないので誤読していることが、私の場合は多い。
② 古文の随筆や和歌は意味がわからなくても音の流れ・言葉の音楽として美しいと感じる。同じ意味での美しさは文語詩でも感じることができる。とくに短唱、抒情小曲は、口語詩よりいい響きだと、好きだなと、感じたりする作品が、とくに土井晩翠にもあった。島崎藤村だけでなく。

3.新体詩
① 薄田泣菫や蒲原有明が、新体詩として、これまでなかった詩形、表現の仕方を見つけようと試み工夫している情熱に共感する。
② 西欧翻訳詩の模倣と工夫、森鴎外や上田敏や永井荷風の翻訳詩集と相互影響。ただし実作のほとんどは、詩連と行数をまねただけ。その型を先に意識して詩句を押し込め拵えた作品は、面白みはあっても、感動に乏しい。
③ さまざまな音数律の詩形の工夫。島崎藤村のようなオーソドックスな七五調は、限界の詩行を越えると、あまりに単調で退屈に陥る。薄田泣菫のさまざまな音数律や、蒲原有明の翻訳讃美歌をまねた四六七調など、単調、退屈を破り、変化を見つけようとする試みの姿勢には学ぶべきところがある。が、やはり、型を先に意識して詩句を押し込め拵えた作品は、面白みはあっても、感動にまでは至らない。順序が逆。詩はまず感動があって、その感動にふさわしい顔で生れ出る、生み出すものだと思う。

4.叙事的長編詩、象徴主義
① 土井晩翠、薄田泣菫、蒲原有明が、時代の流行りもあり試みている叙事的長編詩は試みることへの共感を除くと、私にはつまらない。好みもあるかもしれないが、同時代に書かれた小説に比較すると中途半端で弱く甘い。
②薄田泣菫、蒲原有明、三木露風が、自らの詩風を、象徴的、象徴と読んでいるが、私が先入観で考えていた以上に、とても日本風の日本的な情景、情調の詩だった。もともと詩の不可欠な要素として象徴性はあるのだから、新しく作り出された作風とまではいえず、当時紹介、輸入されたフランス象徴詩派をまねて共通項のないものに名前をつけただけだと感じる。朔太郎の論じるように、『新古今和歌集』や芭蕉がよほど象徴詩だと思う。

 次回は、この野辺で見つけたいちりんの小さな詩の花を咲かせます。


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『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2100円(消費税込)です。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
 ☆ こちらの本屋さんは店頭に咲かせてくださっています。
 八重洲ブックセンター本店、丸善丸の内本店、書泉グランデ、紀伊国屋書店新宿南店、三省堂書店新宿西口店、早稲田大学生協コーププラザブックセンター、あゆみBOOKS早稲田店、ジュンク堂書店池袋本店、紀伊国屋書店渋谷店、リブロ吉祥寺店、紀伊国屋書店吉祥寺東急店、オリオン書房ノルテ店、オリオン書房ルミネ店、丸善多摩センター店、くまざわ書店桜ケ丘店、有隣堂新百合ヶ丘エルミロード店など。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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