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土井晩翠の詩「星と花」

 新体詩、近代詩の黎明期についての雑感を前回書き記しました。
 書きもらしたことを、まず補記します。

 雅語と古語
 薄田泣菫と蒲原有明は、その詩に、雅語と古語(既に使われない死語)をちりばめています。泣菫自身が言っているように、日本語による新体詩をより豊かにしよう、語彙を増やそうと意識しての開拓意思によります。
 私は試みる意思に共感しますが、この挑戦は失敗だったと思います。

 文語は口語と隔たっていますが、さらに文語でももちいない雅語と古語(死語)を取り込んだことで、口語からかけ離れた作品になってしまいました。声、息遣いを失ってしまったひとりよがりな言葉遊びです。
 二人の詩が、とても読んで苦しいのはここに原因があります。現代詩の病弊と通じています。

 言葉に対する理解が浅かったのではないでしょうか。詩語、詩句といっても、詩人がないものを創り出すものではありません。そこには驕りがあります。
 私は古い言葉を大切にとても愛しく思います。そして、古代、万葉の時代に、話されていた、和歌に用いられていた言葉で、受け継がれてきて、今もなお用いられる言葉のいのちはすごいと思います。いのちとおなじように、受け渡されてきたのですから。   
 だからこそ、その美しさを伝え、輝かせ響かせ、言葉のいのち、言魂を受け渡すのが、詩人の役割ではないかと考えます。詩人は神様ではないのですから、無から生みだすことはできません。また、死語を復活させることもできません。
 古典を古典として愛することは過去の遡り、解読し理解しようとすることだから、別のことです。
 新しい詩をつくること、詩の創作は、他のどの文学ジャンルよりも、受け渡されてきた言葉、人と人との間で今生きている共有されている言葉の、表情、声音、ニュアンス、かたち、明暗、歴史をこそ、限りなくゆたかに響かせようとする試みなのだと思います。

 以上、詩想を書き連ねましたが、そのうえで、私は、詩は作品がすべて、と思っています。作品は表情、個性をもったかけがえのない言葉の花、いのちです。
 批評は大切であっても、詩の美しさは理屈ではありません。初恋の一目ぼれのように、好きならそれでいい、理由はいりません。感じとれることのほうが大切だし、詩の喜びは、こころを、感動を感じることです。

 今回この詩人集を読んで、私が一目見て心ときめいた詩を咲かせます。この作品を見つけたから、読んでよかったと思っています。文語ですが、雅語や古語はまったく使っていないので、口語のすぐとなりにある詩です。
 詩にとって百年の歳月の隔たりはあるようでないようなもの、今、いい詩だな、好きだなと私は感じます。

 出典は『日本の詩歌2 土井晩翠、薄田泣菫、蒲原有明、三木露風』(1976年、中公文庫)です。


  星と花 
          土井晩翠


同じ「自然」のおん母の
御手にそだちし姉と妹(いも)
み空の花を星といひ
わが世の星を花といふ。

かれとこれとに隔たれど
にほひは同じ星と花
笑みと光を良い宵々(よひよひ)に
替はすもやさし花と星

されば曙(あけぼの)雲白く
御空の花のしぼむとき
見よ白露のひとしづく
わが世の星に涙あり。


 私も星や花が好きですので詩を書いています。一篇咲かせます。こころのこだまが聴こえるでしょうか?

 すず虫とちいさな花(高畑耕治詩集『愛のうたの絵ほん』から)。


 次回は、白樺派に想うことです。


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    こだまのこだま 動画
  
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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