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岡本潤の詩。お母さん!「罰当りは生きてゐる 」

 『日本の詩歌26 近代詩集』(中央公論社、1979年)を読んでいます。これまで出会う機会のなかった詩人の良い詩が心に響きだすのを感じるとき、私は嬉しくなります。

 今回は、岡本潤(おかもとじゅん、1901年~1978年)の詩をみつめ考えます。
 彼は、萩原恭次郎、壺井繁治とともに、未来派を標榜しました。三人の詩を読み、萩原恭次郎の第一詩集『死刑宣告』(1925年大正14年)の詩「愛は終了され」も紹介しようか迷いましたがやめました。恭次郎の人間性はたぶんきらいではないけれど、詩そのものへの感動が弱かったからです。

 文学運動であっても、運動の主張は声高に叫びアピールするものだけれど、強調符号!!!を繰り返し執拗に重ねることを私は好みません。表現として今までなかった奇抜さ、新奇さはあっても、詩そのもの、こころのゆらぎ、感動を伝えることは逆に弱められ、おろそかにしてしまうのではないかと、私は思います。

 萩原恭次郎と壺井繁治の作品への共感は薄かった私ですが、彼らとともにいた岡本潤の次の詩には、心に響くものがありました。なぜ? 説明できないことですが、私が彼に似ているのかもしれません。詩が好きと感じるのは、知らないまに木魂してしまう心を知ることだからです。


  罰当りは生きてゐる
                        岡本潤


あなたは一人息子(ひとりむすこ)を「えらい人」に成らせたかつた
「えらい人」に成らせるには学問をさせなければならなかつた
学問をさせるには金の要(い)る世の中で
肉体よりほかに売るものをもたないあなたは何を売らなければならなかつたか
だのにその子は不良で学校を嫌つた
命令と服従の関係がわからなかつた
先生の有難味(ありがたみ)といふものがわからなかつた
強(し)ひられることには何でも背中を向けた
学校へは上級生と喧嘩(けんくわ)をしに行くのであつた
一から十まであなたに逆らふ手のつけられない「罰当り」だつた
その子はあなたを殴りさへした
――その時その子が物陰で泣いてゐたことをあなたは知つてゐますか
それでもあなたはその因果な罰当りを愛さずにはゐられなかつた

学校を追はれた不良児は当然社会の不良になつた
社会の不良は「えらい人」が何より嫌ひでそいつらに果し状をつきつけた
「善良な社会の風習」に断乎(だんこ)として反抗した
その罰当りがここに生きてゐる
正義とは何かを掴(つか)んで自分を負けずに生き抜かうとする叛逆者の仲間に加はつて
警察へひつぱられたり あつちこつち渡り歩いたり
飢ゑて死んでも負けるかと言つて生き通してゐる

お母さん!
あなたが死んで十年
だがあなたの腹から出てあなたを蹴つた罰当りの一人息子は此の世に頑然と生きてゐます


 この詩にうたわれた心、生きざまに共感する心を私は抱いて生き、書いています。
  ブログ「権威が、学歴が、賞が、現代詩が、嫌いだから、詩歌が好き。」

 詩は、文学、創作だから、書かれていることが実際にあったことかどうかは、作品の価値に関係ありません。事実と虚構の境界はあいまいなものです。その境界を行き来する心の糸が織りあげた作品が、美しいか、真実を響かせているか、心うつものかどうか、大切なのはそのことにつきます。

 岡本潤のこの作品と、響きあっていると感じた、私の作品を木魂させます。
   詩「好きやねん」(高畑耕治詩集『愛(かな)』所収)。

 次回は独自の強い個から表現したことで岡本潤と似通うものがある同年生まれの詩人、小熊秀雄をみつめます。


 ☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2100円(消費税込)です。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
 ☆ こちらの本屋さんは店頭に咲かせてくださっています。
 八重洲ブックセンター本店、丸善丸の内本店、書泉グランデ、紀伊国屋書店新宿南店、三省堂書店新宿西口店、早稲田大学生協コーププラザブックセンター、あゆみBOOKS早稲田店、ジュンク堂書店池袋本店、紀伊国屋書店渋谷店、リブロ吉祥寺店、紀伊国屋書店吉祥寺東急店、オリオン書房ノルテ店、オリオン書房ルミネ店、丸善多摩センター店、くまざわ書店桜ケ丘店、有隣堂新百合ヶ丘エルミロード店など。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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