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崎本恵の詩(二)。願いに咲き続ける、花。

今回も崎本恵(ペンネーム・神谷恵)の詩を見つめます。今年、野に芽吹き、咲き、揺れている、もう一輪の美しい花です。

 この詩も、読み返してみて、説明はいらないな、と感じます。
 彼女の心の社会への眼差しがより強く表現されている作品です。
 彼女の詩集『てがみ』の前半部には、社会的な弱者、無視され、軽視され、邪険にあしらわれる者の心の目で、不正と悪を告白し立ち向かう強い意思の響いている作品群があって、十数年前に初めて読んだとき、私は強く心を揺すぶられました。
 この詩に今年の秋で会えたことを私はとても嬉しく感じます。花は枯れていない、詩は枯れない、咲き続ける、
そう感じます。詩の花が、根ざし根をのばし芽吹く野の土からすくいあげるもの、それは願いです。願いが涸れない限り花は枯れない、願いの花は人が生きている限り咲き続けます。

  お手をどうぞ
          崎本恵

とろけてしまいそうに柔らかく
真っ白な雪の色をして
それなのに
おひさまのようにあたたかい
あなたのその右の手のひら

あかぎれで
がさがさしたわたしの手を取って
あかるい方へと歩きだす
さあ こっちよ
ここに石ころがあるわ
あ、そっちはとんぼがお休みしてるから
そっと通り過ぎましょ
大丈夫 私がついてるから
きっと大丈夫
まかせておいて
もうすぐ大きな道に出るからね

少女は歌うようにわたしの手を引いている
その瞳に映っているものには
きっと 美も醜も 善も悪もないのだろう

お手をどうぞ
彼女はいまもそう言って
ほほ笑んでいるだろうか
彼女の両親は
ぶっそうな時代だから
その声も手も もう引っ込めて
見て見ぬふりをして 
黙って急いで通り過ぎなさい
そう教えていないだろうか

破壊されました
放火されました
略奪されました
遺体がみつかりました
空母が進水しました
原発が再稼働しました

………

変わってしまった街並みが遠くなるように
お手をどうぞ そう言ってくれたあの神の声が
もう世界のどこにもない現実
言葉は鋭い刃物に姿を変え
わたしの胸に突き刺さったまま走り続けている

降車ボタンを押す
ゆっくりとバスが停まる
降りようとして立ち上がったとき
不意にめまいに襲われたわたしに
年若い運転手が言った

お手をどうぞ

失ったはずの現実の在りかをみつけた
わたしはそんな気がして
見えなくなるまでバスの行方を見守った
変わらないで
そう祈りながら

出典は、ブログ『遠い空へ』。2012年9月30日です。

 崎本恵の詩はこちらの私のホームページでも紹介しています。
 詩集『てがみ』から。詩「生の良心」「病室の海 霊安室から」「てがみ6 神様の石」「茜色のバス停にて」

 次回も崎本恵の詩をみつめ、詩想を記します。

 ☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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