今回まで数回にわたり、出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、私が特に感じるところのあった歌人とその歌を聴きとってきました。
とりあげなかった歌人についても、心に強く響く好きな歌はおおくありますので、今回からは個性的な歌人たちのいいと感じた歌を数首ずつみつめなおし、私が感じ思った言葉を添えていきたいと思います。
生涯をかけて歌ったなかからほんの数首しか咲かせられませんが、でも私は歌い心の歌を香らせた歌人を敬愛し好きだという気持ちをいつも強くもっています。少しでも香りの魅力が伝わってほしいと願います。
あくまで私の今の心に響いた歌ですので、読者の方それぞれが違う歌を良いと感じるのはとても自然なことです。わたしは歌壇での権威も著名度もあまり知らず関心もありません。詩壇についても同じです。
詩歌は花です。ひそやかに咲く美しい花があり、その花に響きうたれる心があるとだけ、感じていただけたらそれでいいと思います。
出典に従い基本的には生年順です。各回の人数も決めずに、詩歌、短歌はいいなという思いのままに記していきます。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。
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佐々木信綱(ささき・のぶつな、1872年・明治5年、三重県鈴鹿市生まれ、1963年・昭和38年没)。
みづうみを越えてにほへる虹の輪の中を舟ゆく君が舟ゆく 『新月』1912年・大正元年
二本(ふたもと)の柿の木(こ)の間の夕空の浅黄に暮れて水星は見ゆ 『椎の木』1936年・昭和11年
あき風の焦土が原に立ちておもふ敗(やぶ)れし国はかなしかりけり 『山と水と』1951年・昭和26年
◎一首目は、上句の叙景の鮮明なイメージが遥かに広がる美しさと、下句のリズム感が浮かび沈む進む舟の動きそのものに溶け合ってゆくようです。君という一語から思慕もかもし出され、抒情歌へと高まっています。
◎二首目は、歌われ映し出される映像が、リズム感にのりながら、柿の木、背景の空、そして最後の一語で宇宙遥か彼方の水星まで一挙に遠くの一点に焦点が絞り込まれ、鮮やかに心に浮かび輝きます。
◎三首目は、直情の歌、敗戦後の思いが、私の心にも、苦く滲み込んできます。
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与謝野鉄幹(よさの・てっかん、1873年・明治6年京都市生まれ、1935年・昭和10年没)。
野に生ふる、草にも物を、言はせばや。
涙もあらむ、歌もあるらむ。 『東西南北』1892年・明治29年
われ男(を)の子意気の子名の子つるぎの子詩の子恋の子あゝもだえの子 『紫』1901年・明治34年
情(なさけ)すぎて恋みなもろく才あまりて歌みな奇なり我をあはれめ
◎一首目は、明星派そのものの抒情、ロマンがあふれ、みずみずしい若い感情の歌で、私はとても好きです。野の草の涙や歌を聴きとり、言葉にするのが詩人だと思います。
◎二首目は、有名な歌で、自らのことを、「***の子」を変奏させて歌います。リズムが単調で奥行きの深い美しい歌ではありませんが、それでも、与謝野鉄幹という、個性そのもの、こんな歌ほかの人には絶対に歌えない、そう感じさせる突出した心の輝きが私は好きです。
◎三首目も、鉄幹が自らの個性と自身の歌をよく知っていたと教えてくれます。「情けすぎ」「恋」多くもろくないと詩人でありえませんが、鉄幹の歌は「才あまりて」「奇」で、主張が勝ち頭で作ってしまい、晶子のような本物の抒情歌は歌えませんでした。でも人間味あふれる彼が好きだし、雑誌「明星」を推し進めた情熱を敬愛しています。
出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)から。
次回も、美しい歌の花をみつめます。
☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年
3月11日、
イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
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