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釈迢空。みな 旅びと。歌の花(五)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性的な歌人たちの歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせた歌人を私は敬愛し、歌の魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

■ 釈迢空(しゃく・ちょうくう、1887年・明治20年大阪府生まれ、1953年・昭和28年没)。

みなぎらふ光り まばゆき
 昼の海。
疑ひがたし。
人は死したり。   『春のことぶれ』1930年・昭和5年

なき人の
今日は、七日になりぬらむ。
 遇ふ人も
 あふ人も、
みな 旅びと

愚痴蒙昧(ぐちもうまい)の民として 我を哭(な)かしめよ。あまりに惨(ムゴ)く 死にしわが子ぞ  『倭をぐな』1955年・昭和30年

◎三首とも、戦争で亡くしたわが子を想う悲しみの歌、胸をうたれます。
◎一首目、二首目は、詩といってもおかしくありません。三十一文字という最小限の短歌の決まりごとをまもりつつ、
一気に続けて書き下ろさずに改行と詩行の並びのかたち、それと一体の、余白、呼吸を止める「間(ま)」、そして詩行の初めと終りの音の響きあい(押韻にちかいもの)にこだわった創作歌であり、抒情詩に限りなく近いといえます。
◎一首目は、初めの二行の情景のイメージがとても鮮明に美しく心に浮かびあがります。その詩の世界のなか続く二行に断念の痛切な想いが突き抜けます。それらを支え溶け合っているのは主調音の母音イi音の、引き締まった音でとても多くなっています。
四行ともに最後の音の母音は「まばゆきkI」「うみmI」「がたしsI」「たりrI」と引き締め閉じられ改行の余白、無音、間(ま)を呼びます。
1、2、4行目の最初の音も「みmIな」「ひhIる」「ひhIと」と呼び合っています。
特に最終行は「人は死にたりhItowa SHInItarI」、死SHIという鋭い音をイI音が包み、この詩全体の緊張感を高めて終わります。意味とイメージと音が詩想にいったいとなり溶け込んだ美しく悲しい詩です。

◎二首目は、同じ主題を歌いながら、受ける印象が大きく異なり、無常観、諦念が滲んでいます。終りの3行は胸に焼き付いて忘れなくなる詩句です。この感じ方の違いをささえているのが、主調音が母音アA音と開かれた広がってゆく音であることと、子音のN音、m音のやわらかなこもる音が多いこと、とくにその子音N音と母音A音の組み合わせの「なNA」が繰り返されているからです。
3、4行目で「遇AふU」「あふAU」と頭韻し、並べながら漢字とひらがなに変奏しています。
1、3、4、5行目の詩行の終わりも、「人のHITOnO」「HITOmO」「HiTOmO」「旅びとBITO」と変奏しながら母音O音での脚韻の木魂が詩行をささえています。美しく悲しい言葉の調べ、抒情詩です。

◎三首目は、詩想の強さ、吐き出さずにはいられない思いの強さが、詩行の形を整え「創る」作業を嫌った、裸のままで生まれ出ることを望んだ、直情の歌です。「(哭かしめ)よyO」と「子ぞkOzO」の上句と下句の最後の音、母音オO音が思いの強さを波動のように、ドン、ドンと読む心に押し放ちます。悲しいけれど忘れられなくなる強い響きの歌です。

 今回の最後に付け加えますが、釈迢空は、民族学者、日本国文学者として著名な折口信夫(おりくち・しのぶ)の歌人としてのペンネームです。彼の古代からの歌謡や和歌、国語、言葉についての考察は、教えられるところの多い豊かなものだと私は思います。(彼の論考は青空文庫でも読むことができます)。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。

次回も、美しい歌の花をみつめます。


 ☆ お知らせ ☆
 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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