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田川紀久雄の『慈悲』。あなたの微笑みが。

 詩人の田川紀久雄さんが新しい本『慈悲』(2013年3月20日、漉林書房、2000円)を出版されました。

 この本の表紙絵は画家であるご自身の作品で、優しくぬくもりが溶けた色あいの女性が佇んでいます。どのような本であるかは、あとがきの次の言葉に書き尽されていますので、以下に抜粋します。
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「あとがき」
 末期ガン以後ひたすら言葉を書き続けている。それは書かずにはいられないからだ。(略)要は書きたいことだけを書いているに過ぎない。(略)末期ガンを患ったあとの魂の軌道を報告しているとしかいいようがない。(略)。この本もまだ私は生きているぞという報告なのだ。(略)。

 私は、詩人とは書かずにはいられないものも書いている人、ただそれだけだと考えています。
 そして文学は、投げ込まれた時間のなかで、なぜ生きているのか、真理を求め問いかけてもわからない人間が、それでも今生き感じて心に抱いている、自分にとってほんとうのこと、真実を、言葉の花として咲かせること、だと考えています。感動の花の姿は、色とりどり、個性豊かな違いがあればあるほど、いいと思います。

 田川さんの花は、とても素朴な、だからこそ、いちばん美しいと感じてしまう、小さな野の花です。こころのはだかの思いです。見つめ、感じ、微風をともに感じ、同じ瞬間ともにふるえることが、野の花を愛することだと私は思います。

 私の心が木魂した言葉を、とても自由に、以下に抜き出しました。読者ひとりひとりの方が、野の花のいろんな表情を、この本から聴きとって頂けたらと願います。

● 以下はすべて田川紀久雄『慈悲』からの原文引用です。かっこ内は「」は作品名です。

「慈悲」
生きている人たち/亡くなっていった人たちの/いのちと対話することで/心の中にあった罪意識が和らげられていった/すべての存在が宇宙の暗闇に呑まれてゆく/そう思うと生きているものすべてが愛おしい/無心になって生き物と係っていきたい

「交友」
私が末期ガンを宣告されて/蝋燭の焔が消えかけた瞬間に/いのちの中に多くの愛が秘められていることを感知した/いのちが愛おしい/愛するものを/慈しんでゆきたい
これから先どのように生きていけるのか/先がまったく視えてこない/ひたすら詩を書いてゆくだけだ

「哀しみへの考察」
哀しみは何処から来るのだろうか/それは宇宙の誕生からではあるまいか
哀しみは何処から来るのだろうか/それは人を愛することから生まれて来る
哀しみは何処から来るのだろうか/できるだけ多くの人たちの幸せを願う/それなのにこの地球から戦争が絶えることがない/多くの子供たちが犠牲になって行く/多くの人達が難民になってゆく/今の私には何も手助けもできない
愛するものを守るために/世の中の哀しみを抱きしめて生きていくしかない

「落とし穴」
自分だけが救われても/身近な人たちが救われなかったら哀しい
存在そのものの虚しさを身に沁み込ませながら/祈りの中に身を晒すことになる/ひたすら美しい世界を夢見ながら……
私は身近な人を愛していくしかない/裸形のまま素直に/生きていたい/大きな空洞の落とし穴に/埋没したまま/多くの人々の苦しみと共に/生きて往かざるを得ない

「存在と非存在」
人の心は/水面(みなも)のように揺れ動いている/相手の幸せを願いながらも/どこかで裏切ってしまう/所詮自分だけが可愛いのだ
この世の苦しみから逃れる方法は/どこにあるのだろうか/路傍の花々を見て心を癒したり/海辺の微風に身を任せてみたり/生れたての動物たちを見ることで/いのちの聲を聴くことが出来る

「フーガの技法」
風の穏やかな音に包まれる/海辺で渚の音に包まれる/花々の揺れる音に包まれる/夜空の満天の星々に包まれる
すべての生き物の鼓動が聴こえてくる/この宇宙の孤独に包まれていることを感じる

「エゴな愛ほど美しい」
エゴな愛ほど美しい/美しい愛ほど終末は哀しい/哀しい愛ほど激しく燃え上がる
純粋に生きることはとても厄介なことだ
永遠に満たされることのない愛を求めて/エロスの中で溺死するしかない

「意識は踏み絵でもある」
罪意識は人間としての踏み絵である

「無言の祈り」
苦しい時は/苦しみの坩堝の中で溺れるしかない/手足をバタつかせたり踠いたりするしかない/それでもたすからなければ諦めるだけだ

「生きたい」
哀しみを知らない人は不幸だ/でも生きている時は/できるだけ哀しみを味わいたいとは思はない
一番辛く苦しい時が/その人にとって生そのものが濃密でいられたときであるかもしれない/私が末期ガンといわれたときも/いのちにとっては豊かな時であったかも知れない/一瞬一瞬いのちそのものを熱く感じられた/生きたい/このまま死にたくはないという思いが/いのちそのものを身近に感じさせた

「聲をあげる歓び」
聲の中にいのちを吹き込むこと/言葉にいろんな響きや色が隠されています/その響きや色にいのちを吹き込むことによって/聲が踊り出してゆけるのです/いのちの響きには相手のいのちの扉を開ける力が潜んでいます


「慈心」
人間の心はいつも矛盾に満ちている/心では綺麗な事を言っても/心の隅ではいつも悪魔が何事かを囁いている
人にとって何にも役立つことがなくても/精一杯生きていることに/生の意味を求めていたい

「聴く人」
多くの苦しむ人たちの聲が聴こえてくる/耳を澄ましてただその聲に耳を傾けるだけだ
そのようなことを書いても誰も振り向かないよと言われる/私の言葉がこの地上から消え去ってゆくだろう/でも私は生きている限り/詩らしきものを書いてゆくだけだ
ただひたすら耳を研ぎ澄まして/苦しみ悩む人の聲を受け止めるしかない/金銭的にも物質的にも/何もしてやれない/ただ聴く人になり切ることぐらいだ/私は聴く人であり/叫び続ける詩人でありたい

「慈悲 2」
あなたの微笑みが/私の魂を励ましてくれる


☆ お知らせ

田川紀久雄『慈悲』(2000円税送料込)ご注文は、
書店で、漉林書房、地方小出版センター扱いと告げてできます。
②または、郵便振替00160‐5‐18362 漉林書房で送付ご希望先住所をお知らせください。
漉林(ろくりん)書房 〒210‐0852 川崎市川崎区鋼管通3-7-8 2F (問合せTEL:044-366-4658) 

詩語りライブ「いのちを語ろう 第10回」

田川紀久雄 宮澤賢治「青森挽歌」、自作詩『慈悲』
坂井のぶこ 麻生知子詩集、自作詩『浜川崎から』
野間 明子 自作詩
  
日時:2013年3月16日(土)午後2時
より(午後1時40分開場)。
場所:東鶴堂ギャラリー。JR鶴見駅徒歩5分、京急鶴見駅徒歩2分。
   鶴見中央4‐16‐2 田中ビル3F(TEL045‐502‐3049)。
料金:2000円

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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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