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馬場あき子。美しい調べ。歌の花(二三)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。

出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

● 馬場あき子(ばば・あきこ、1928年・昭和3年東京生まれ)。

胸乳など重たきもののたゆたいに翔(た)たざれば領す空のまぼろし  ◆『桜花伝承』1977年・昭和52年
◎女であり空に飛び立てない想い、「空のまぼろし」を心に感じる想いを、美しい言葉に織り成しています。調べの中間部の流れに「たTA」の音がリズムを生んでいます。「omoTAkimonono TAyuTAini TATAzareba」。「翔(た)たざれば」と読んでいることからも、「たゆたい」という詩句とのイメージの対称性と音感の呼応を感じて、作歌されたと感じます。

降る雪の白く無量のもの思い居ても起ちてもここ冬の極(はて)  ◆
◎白いイメージの世界が美しく拡がります。調べも美しく、初句の「降る雪FUrUyUki」と末句の「冬FUyU」が押韻しています。母音オO音が、「のNO」音と「もMO」音を軸にリズムを奏でています。「yukiNO shirOkumutyONOMONOOMOi iteMOtachiteMO KOKO」。とくに「もの思い」と「ここ」は木魂しています。

夭死せし母のほほえみ空にみちわれに尾花の髪白みそむ  ◆
◎詩想と音楽ともに静かな美しい歌です。若くして亡くなった母を空に感じつつ黒髪が薄(すすき)のように白くなり初めたと、髪と薄のイメージ、背景の空、重ねあわせに感動が生まれます。
調べの主調音は、夭死のイメージにふさわしく静かな母音イI音で句末の脚韻を奏でながら、柔らかな「みMI」音が旋律に静かな波頭となり浮きでています。「youshIseshI hahanohohoeMI soranIMIchI warenI obanano kaMIshIraMIsomu」。

わが生(しょう)やこのほかに道なかりしか なかりけんされどふいに虹たつ  『ふぶき浜』1981年・昭和56年
◎日本語はアクセントの強弱がほとんどなく、リズムの緩急も乏しいなだらかな調べを特徴としますが、この歌は三十一文字のなかで音の強弱と緩急(早い遅い)を心理的に呼び起こせることを、見事に教えてくれます。
初句に俳句の発句の切れ字の強調音「やYA」でアクセントと休止を生み、「このほかkOnOhOka」なだらかに母音オO音を重ねた後、「に道nImIchI」母音イI音で強く締まり小休止を生み、強く問いかける「しかSHIKA」で高め大きな休止を生み、一文字の余白の間(ま)、無音の静けさに沈みます。急激にそそり立つように、同じ「なかりNAKARI」の響きで木魂する答えの言葉を「けんKENN」と強く響かせN音で閉めて小休止を生み、三音の言葉を重ね「されど」「ふいに」とリズムを生んで、最後の詩句の強い音と美しいイメージ「虹NIJI」を空高く「たつ」、立ち昇らせます。
とても美しい調べです。

迷いなき生などはなしわがまなこ衰うる日の声凜(りん)とせよ
◎この歌も自分に言い聞かせる言葉「凜(りん)とせよ」そのまま凛とした、強弱と緩急のある、メリハリを感じさせる歌です。「なき」「など」「なし」と類似音を変化させ畳み掛けて波動をおこし「naSHI」と強く締まる音で小休止を生み、「わがまなこおとろうるwAgAmAnAkOOtOrOUrU」と子音と織り込められた母音は、アA音、オO音、ウU音と順に重なる波音を奏でています。「声KOE」と高めて小休止し、最後にも最も高め強めた命令形の声「りんとせよ」を響かせます。精神性の強さを感じさせる歌です。

まはされてみづからまはりゐる独楽(こま)の一心澄みて音を発せり  ◆『葡萄唐草』1985年・昭和60年
◎独楽を自らの、生きることの象徴にまで高める詩想が調べに溶けてとても美しい歌です。
前半部は「まはされmAwAsAre」と「まはりmAwAri」の繰り返しの波音の高まりの後それぞれ沈む波間に、「みづからmIzUkArA」と「ゐるこまIrUkomA」の母音の並びが類似する静まりの波音があります。「のNO」で大きく休止した後調べは変化します。「ISHInSumIte otoo haSSerI」引締る母音イI音を主調に、詩想と溶け合うように子音S音が透き通る音を美しく発しています。それぞれ三音の「こまのkOmAnO」と「音をOtOO」も弱い波音を重ねています。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

次回も、美しい歌の花をみつめます。

 ☆ お知らせ ☆
 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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