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伊藤一彦。大島史洋。時田則雄。歌の花(三五)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

■ 伊藤一彦(いとう・かずひこ、1943年・昭和18年宮崎市生まれ)。

月の出も日の出も見ずにあり経る日空空漠漠くうくうばくばく  『火の橘』1982年・昭和57年
吾を生みしもの地にありと思へども二階にのぼり月にちかづく  『青の風土記』1990年・昭和62年
◎歌人の、天体、宇宙への馳せる思いを感じる二首です。
 一首目から、月の出や日の出を見て、宇宙の遥かさを感じることが、この歌人にとって生きることの充実に強く結びついていることがわかります。逆に天体を見ず感じずにいる心の表現、「空空漠獏くうくうばくばく」は心の空虚さを、心に拡がる砂漠のように、文字と音でよく、響かせています。
 二首目はよりストレートにその思いを歌った歌で、かぐや姫が月を思慕するように、「月にちかづく」という表現が美しいと感じます。

はるかなる海を月かげ浴びながら憩(やす)まず飛ぶか鳥は旅人  ◆『海号の歌』1995年・平成7年
われを知るもののごとく吹く秋風来来世世(らいらいせせ)はわれも風なり  ◆
◎これら二首にも、歌人の人生観がよく響いています。
 一首目は、月光をあびながら海をわたる鳥のイメージが美しく浮かび上がり、「鳥は旅人」という詩句に詩人の共感が響いていて、エコーのように「私も旅人」という書かれていない声が聞こえてきます。
 二首目も、秋風への共感を「われも風なり」と歌いあげます。「来来世世」は、「来世」を重ねた工夫の詩句だと思いますが、「RAIRAISESE」と音がきれいで「らいRAI」子音R音の流れる響きと「せSE」子音S音のかすれが風のように意味と溶け合い吹く過ぎてゆきます。

■ 大島史洋(おおしま・しよう、1944年・昭和19年岐阜県生まれ)。

ぎりぎりのところで人は如何に処す見て見つくして越えんと思う  ◆『わが心の帆』1976年・昭和51年
◎述志の歌です。「ぎりぎりのところ」、「見て見つくして」という詩句に込められた思いの強さが響いてきます。最後の越えんと思う」と詩句にこの歌人の生への前向きな態度が現れています。この詩句に私は石川啄木の「こころよく/我にはたらく仕事あれ/それを仕遂げて死なむと思ふ」が木魂しあって聴こえてきます。

■ 時田則雄(ときた・のりお、1946年・昭和21年帯広市生まれ)。
トレーラーに千個の南瓜(かぼちや)と妻を積み霧に濡れつつ野をもどりきぬ  『北方論』1984年・昭和56年
妻とわれの農場いちめん萌えたれば蝶は空よりあふれてきたり
◎北海道で農場を営む生活を歌う、独自の歌の世界を築く歌人です。
 一首目は、収穫の誇らかな気持ちが歌い上げられています。「トレーラー」という歌われることの少なかった詩句で独自の世界の扉を開き、「千個の南京と妻を積み」、南京と妻を並列して「どちらも深く愛しているんだ、大切なんだ」と歌っています。
 二首目にも、農場に賭ける思いの強さがあふれでています。草木萌えあがる季節の情景が「蝶は空よりあふれてきたり」と、とても美しく歌われ心に響きます。

この躯(く)絞れば黒き脂のいづるべしおしあひへしあひ生ききしからに  『緑野疾走』1985年・昭和60年
◎自省する思いがそのまま調べとなったようです。歌のイメージの中心の詩句「躯(く)KU」と「黒きKUroKI」が、子音K音の音の強さでくっきり浮き出しています。自省の念の厳しさそのままに主調音は母音イI音で、子音S音との「しSHI」、特に最終句は子音K音との「きKI」音とともに鋭く吐かれる息の強さで、思念を奏でています。「絞ればSHIboreba」、「いづるべしおしあひへしあひ生ききしからにIdurubeSHI oSHIaIheSHIai IKIKISHIkaranI」。この文語の音楽性がこの思念を詩歌として高めています。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

 次回も、美しい歌の花をみつめます。

 ☆ お知らせ ☆
 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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