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道浦母都子。感情と情熱の、歌の花(三七)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

● 道浦母都子(みちうら・もとこ、1947年・昭和22年和歌山市生まれ)。

催涙ガス避けんと秘かに持ち来たるレモンが胸で不意に匂えり  『無援の抒情』1980年・昭和55年
◎1969年の大学紛争の象徴のようになった歌集の歌。レモンの甘酸っぱさと鮮やかな黄は、近代文学・詩歌の世界では青春の象徴になっていて、梶井基次郎の小説、宮澤賢治や高村光太郎の詩の哀感が木魂して聴こえます。私も「潮風」という詩でこの伝統の感性を響かせました。

人知りてなお深まりし寂しさにわが鋭角の乳房抱きぬ 
◎初めて愛しあった後の寂しさ、愛する気持ちの深まりと共に、会えない時間に増す寂しさ、女性の微妙な心もようと体の感覚を、悲しく響かせていて、美しい歌だと感じます。
 
こみあげる悲しみあれば屋上に幾度も海を確かめに行く
水より生まれ水に還らん生きもののひとりと思う海恋うる日は  ◆
◎海を恋うる歌。
 一首目は、とても素直な歌ですが、海を見るのが好きな人には、よくわかる、そうだなあと共感して、自分の姿を重ね合わせると思います。今見に行けなくても、歌の世界で「幾度も海を確かめに行く」自分を見つけることができる歌です。
 二首目の歌も、海が好きな誰もが心に抱いている想いを歌ってくれます。「海恋うる」、とても好きな詩句です。

全存在として抱(いだ)かれいたるあかときのわれを天上の花と思わむ  『ゆうすげ』1987年・昭和62年
与えむと声なくひとをかき抱(いだ)く或る夜(よ)は乱れし髪のごとくに
◎男女の愛の交わりの情熱的な歌。
 一首目には、濃密なナルシシズム、自己愛の花が香っています。それがうぬぼれに陥っていないのは、「思わむ」という詩句に、夢のような時間にいた自分の姿に少し距離をおいて見つめる眼差しがあるからです。私にはこの短い詩句から「愛欲の交わりを違う風に見て、たとえば獣の性欲を貪っただけだと蔑みはしないで、を心と体がいったいとなる尊いものと感じ、その時間を生きた自分を、天上の花と思おう」という強い意思が聴こえてきます。
 二首目の歌の「乱れし髪」という詩句には、与謝野晶子の歌集『乱れ髪』への意識と木魂があり、鮮烈な愛の歌集の世界へつながっています。彼女はのちに晶子の全歌集を編んでもいます。愛欲の交わりを肯定的に歌いあげていることが、私はいいと感じます。

わたくしの心乱れてありしとき海のようなる犬の目に会う
◎感情の激しさ、意思の強さを秘めた情熱的な歌人が、心乱れたときに出会った犬の目を「海のようなる」と、素晴らしい詩句で受けとめます。自らの心の乱れの前にひろがる、とても静かな穏やかな海です。海を前にちっぽけな人間の心の波立ちが静まっていくように、犬の眼にひろがる海が見えてくるような気がします。

秋草の直立(すぐた)つ中にひとり立ち悲しすぎれば笑いたくなる
◎この歌が心に響くのは「悲しすぎれば笑いたくなる」という人の心の機微をすくいあげているからです。秋草の中にたたずむ姿は、実際の情景であっても、心象風景であってもよくて、こんなふうに感じるときがある、という共感に心ゆれることができるなら、それでよいのだと思います。

父母の血をわたくしで閉ざすこといつかわたしが水になること  『風の婚』1991年・平成3年
取り落とし床に割れたる鶏卵を拭きつつなぜか湧く涙あり  ◆『夕駅』1997年・平成9年
◎離婚し子を産まなかった自分の生き方を見つめる歌。
 一首目は、悲しみが透明に沁み響いてゆくようです。「わたしが水になる」、想いがゆれる詩句です。
 二首目は、その複雑な感情、負い目、責め、悲しみ、諦め、寂しさの絡み合った固まりが、鶏卵が命にならずに割れたことをきっかけに、心の器が砕け、涙になってあふれだす。悲しみの涙が心に波のように打ち寄せてきます。

うたは慰藉 うたは解放 うたは願望(ゆめ) 寂しこの世にうたよむことも  ◆
◎歌人として生きることを意思し続けようとする詩句に私は共感します。感情の豊かな、情熱が響いてくる、好きな歌人です。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

次回も、美しい歌の花をみつめます。

 ☆ お知らせ ☆
 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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