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久葉尭。小島ゆかり。歌の花(四二)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

■ 久葉尭(くば・たかし、1955年・昭和30年山口県生まれ)。

生まれ来むはじめての子を待つ日々の心はただに遠浅(とほあさ)なせり  『海上銀河』1987年・昭和62年

◎もうすぐ生まれてくる第一子を待ち望む心象風景を、遠浅の砂浜の海の景色に重ね描きだして、印象的な歌です。

つはつはと牡丹雪降る生れこし吾子の一生(ひとよ)の黎明をふる

◎「つはつはとTUWATUWATO」という詩句表現に不思議な感性を感じますが、わかる気がするのは、この歌人が生涯忘れられない時に、そのように感じて生まれでた言葉だからだと思います。「一生(ひとよ)の黎明」という詩句から、夜明けの景色が心に広がります。最後の詩句「ふる」をひらがなにすることで、一生の始まりという一度しなかい時を祝福するような、雪のやわらかな姿がふんわり見えてくる気がします。

をみなごを産みたる妻が女(をみな)ゆゑ負はむかなしみ淡々(あはあは)と言ふ

◎とても素直な詩想の歌ですが、「をみなごOMINAGO」、「をみなOMINA」という言葉の響きへの感性がこの歌の源にあります。「女の子ONNANOKO」、「女ONNA」、似ているようで違う響きの言葉を使わずに、歌人が選んで使っているからです。「淡々」を「AWAAWA」と響かせるのも心の感性です。「TANTAN」と読ませるとまるで違った感じの歌になります。詩歌の詩句を選びながら詩行を紡いでいくことは、意味・イメージとともに、言葉の音の導きや呼応に耳を澄ませることでもあります。

青空の断片ばかり見ゆるかな都市といふこの大き迷宮
◎都心を歩くとき見上げる空はちぎれつながっていなくて、痛々しく私も感じ、詩にしたこともあり、この歌に共感しました。

● 小島ゆかり(こじま・ゆかり、1956年・昭和31年愛知県生まれ)。

風中に待つとき樹より淋しくて蓑虫(みのむし)にでもなつてしまはう  『水陽炎』1987年・昭和62年

◎素直な口語表現の言葉の風が、情景と心象風景を折り合わせながら、流れてゆくように感じる歌です。

まだ暗き暁まへをあさがほはしづかに紺の泉を展く 
ゆふぞらにみづおとありしそののちの永きしづけさよゆふがほ咲(ひら)く 『水陽炎』以後

◎朝顔と夕顔の、静かな調べの美しい歌。
一首目は「紺の泉を展く」という詩句に鮮やかな、みずみずしいイメージ、花びらのふるえを伝えてくれます。
二首目は、夕顔のひかえめなしとやかなイメージを、ひらがなの、やわらかなかたちと、一音一音の表音をひろってゆくゆるやかな流れの調べで、咲かせています。

ぶだう食む夜の深宇宙ふたり子の四つぶのまなこ瞬きまたたく
抱くこともうなくなりし少女子(をとめご)を日にいくたびか眼差しに抱く  『希望』2000年・平成12年

◎一首目は、ぶどうを食べて喜んでいる二人の子どもの四つの目の輝きを、ぶどうの「四つぶ」、「粒」と木魂させ、「深宇宙」の星の瞬きとも木魂させています。「つぶらな」という瞳を修飾する言葉も、なんとなく聴こえてくるようです。イメージが重なり溶け合い拡がってゆく、童話のような美しい歌です。
 二首目は、子どもの成長を見守る愛情があたたかく伝わってきます。「眼差しに抱く」、愛情の体温を感じる、心に響く詩句です。二首ともにとても好きな歌です。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂
から。

 次回も、美しい歌の花をみつめます。

 ☆ お知らせ ☆
 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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