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水原紫苑。死生、愛と美。歌の花(四四)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

● 水原紫苑(みずはら・しおん、1959年・昭和34年横浜生まれ)。

 とても繊細な感性で言葉の泉からふるえ輝く詩句をすくいあげるような叙情歌人です。どの歌も美しく、私はとても好きです。

光線をおんがくのごと聴き分くるけものか良夜眼(まなこ)とぢゐる  『びあんか』1989年・平成元年

◎「良夜」という詩句から、月のひかりを浴びて息する「けもの」、生き物である身をみつめます。「光線をおんがくのごと聴き分くる」という詩句は、光線を感じとることでも、音を聴き取ることでも、他の「けもの」に劣っている人間が、繊細な感性と感受性のみずみずしさを失わない人間であることで、初めてできること、詩心を抱くことです。心に響く詩句です。

透明の伽藍のごとく楽章がその目に見ゆる青年を恋ふ

◎恋の歌。抒情の歌の本質は、恋愛、恋の歌の調べにこそふるえます。詩想の美しい透明の「伽藍GAran」「楽章GAkushou」の荘重さを、頭韻しあうGA音、子音G音が響かせています。最後の詩句「恋ふKOU」は、静かに閉じる、もの思いにふける音色で余韻を響かせます。旧なかづかい「ふ」は「ウU」と発音はしても、はかないため息のような子音F音を無音でふくみふるわせるので、切なさがまして感じられます。

からまつの天に向かひて落ちゆけり神やはらかに梢(うれ)を引く朝

◎静かな映像のようなイメージを呼び覚ます歌。水溜りに映る青空と落葉松の梢の円錐の中心深くにひそむ神に引かれ吸い込まれていくような感覚です。ここでは水溜りは使わずに、見上げる空に伸びるゆく梢の枝先に囲まれた中心点の空に吸い上げられてゆく感覚を、落ちゆくと美しく歌ています。歌人の感性の繊細さを感じる歌です。

われらかつて魚(うを)なりし頃かたらひし藻の蔭に似るゆふぐれ来たる

◎この歌も歌人の感受性のゆたかさがふるえます。「ゆふぐれ」を、「魚だった昔に語らい合った藻の蔭に似ている」と感じ、歌うのは、すごいなと思います。

まつぶさに眺めてかなし月こそは全(また)き裸身と思ひいたりぬ

◎素直な歌ですが、月の心、月の気持ちを自分とおなじように感じ、裸身である月と宇宙空間を越えて、交感しあっています。「かなし」という詩句が月光のように清澄に響いてきます。

風狂ふ桜の森にさくら無く花の眠りのしづかなる秋  ◆

◎新古今和歌集の藤原定家の歌「見わたせば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋(とまや)の秋の夕暮」と木魂するような象徴詩のような歌です。「桜の森」「さくら」「花」と詩句を繰り返すことで、イメージとしての桜を想起させながら、花はすでに散り枯れ枝に風が吹き抜ける情景をより強めて歌います。無いものを、象徴的に見せる技法です。
もう一点、「風狂ふ」風の強さと、今は散ってもう無い桜の「花の眠りのしづかなる」静けさの対比、コントラストが心に強い印象を残します。

魚(うを)食めば魚の墓なるひとの身か手向くるごとくくちづけにけり  『びあんか』以後

◎魚のかなしみを感じる感受性がとても好きです。この歌の「手向くるごとくくちづけ」ているのは、食べている歌人自身の魚への祈りでもあり、魚の墓である歌人に食べられようとしている魚の祈りでもあると感じます。「くちづけにけりKuCHIzuKEnIKErI」という詩句に子音K音、チCHI音の鎮魂の鐘の音色を沁みこませていて、最後の母音E +I音の変奏「けに」「けり」も、かなしく心に響き続ける歌です。

死ぬるまで愛しあふ鳥 死を越えて愛しあふ鳥 白ふかきいづれ  ◆『客人』1997年・平成9年

◎死と愛の抒情詩。生の極みである死と愛を歌い、その究極の価値を「白の深さ」、純白であることに置いていて、心を染められる想いがします。白い鳥に死生をわたる象徴をみる、記紀歌謡の頃から日本詩歌の伝統に根ざしています。より広く、不死鳥、フェニックスも重ねて感じられます。美しい歌です。、

桜桃の対幻想のくれなゐのまばたきさへも責めらるるかな  ◆

◎つながる二つぶのさくらんぼの紅に、愛と性の象徴をみて、時間を止めます。静止画のような沈黙の瞬間の美があります。冒頭は「OUtOUNO tuigensOUNO kurenaiNO」は、母音OUと「のNO」音の調べ、最後の「らるるかなRARURUKANA」の調べも美しく響きます。「まばたきさへも責めらるる」と感じる感性の感度の鋭さが、時間が止まり音が消える美を、この歌に立ち上らせています。

きらきらと冬木伸びゆく夢ににて太陽はひとり泪こぼしぬ  ◆

◎童話の心が息づいている優しい歌。太陽の心、太陽の孤独をともにを感じて歌うのが、歌人、詩人です。美しい絵本の頁を心に開いて、絵を見つめているような気持ちになれる、好きな歌です。とても優れた抒情歌人だと思います。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

 次回も、美しい歌の花をみつめます。

 ☆ お知らせ ☆
 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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