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おじぎそう。睡蓮。月見草。撫子。夏薊。俳句の花(五)。

 花の名を詠んだ俳句を見つめています。出典は、『俳句の花図鑑』(監修:復本一郎、2004年、成美堂出版)です。入門書ですので、花の名にも俳句にも詳しくなくても、美しい写真を眺めながら楽しく読むことができます。俳人は季語として花の名をいつも意識するからでしょうか、季節の移ろいに咲く花の姿をとてもよく知っていて素晴らしいなと、私は素直に感じます。

 初春から夏の終りまで順に、どちらかというと知らない人もいるような花を主に、出典にあげられたさまざまな俳句から私の心に響いた句を選び、いいなと感じたままの詩想を☆印の後に記します。

 今回は、仲夏、晩夏の、花の名を詠み込んだ俳句です。

●晩夏

  含羞草いつも触れゆく看護婦あり(おじぎそういつもふれゆくかんごふあり)  石田浪郷

☆「看護婦」という詩句には、おじぎする葉に触れて、いつも会話している、優しい女性の心に共感している、作者の思いを感じます。きっとこの俳人は花と会話する人で、オジギソウに自分もまた触れたいと思っているのでしょう。私もまた、触れたくなります。
 結語が一音多く字余りであることで、「看護婦あり」が重みをまし強調されて心に残ります。

  睡蓮や鯉の分けゆく花二つ(すいれんやこいのわけゆくはなふたつ)  松本たかし

☆私は叙景の句はどちらかというと好みではないのですが、この句のようにその情景が鮮明であると心に波紋が自然に拡がってゆきます。あえて象徴的な意味づけをしなくても、花のあいだの水面を分けるように泳ぐ鯉の姿と二つの睡蓮、そのイメージの美しい波紋が心に生まれ拡がるのを感じとれることは、静かな喜びだと思います。

  月見草あはれあはれと咲きにけり(つきみそうあわれあわれとさきにけり)  青柳志解樹

☆この句の「あはれあはれ」、「あはれ」の繰り返しは、読者の好みが分かれる気がします。一言「あはれ」といい、その余韻を聴きとることが良いと感じる読者もいると思います。私は「あはれあはれ」という重ねられた詩句であることで、言葉の意味の繰り返し以外に、次のことが込められている気がします。
 咲き乱れる月見草の花花、花びらの柔らかな姿が、この六字のひらがなの文字の曲線のかたちで思い浮かぶこと。同時に花花みんな、一輪一輪が「あはれ」を感じ「あはれ」を表現してゆらめいていることです。冨士には月見草がよく似合う(太宰治「冨獄百景」)ですが、月見草には「あはれあはれ」が似合います。

  撫子や狂へば老も聖童女(なでしこやくるえばろうもせいどうじょ)  福田蓼汀

☆不思議な悲しい句です。撫子の鳥の羽のような花びらに、狂った老女の振り乱された髪を重ねつつ、そのうすものの優しい色合いのほのかさに、清らかな童女の顔が浮かび上がってくるようです。人間の姿を深く捉え、花に託していて、心に残る強さのある句です。

●三夏

  そよ風に雲の匂ひや夏薊(そよかぜにくものにおいやなつあざみ)  佐野青陽人 

☆「雲の匂ひ」という詩句にこの句のいのち、感動の種があり、句となり咲いたと、私は感じます。頭上には大きな広がる青空、浮かんでいる真っ白な雲、その匂いを鼻腔をふくらませる風に感じる、夏。道端にそよぐアザミの鮮やかな赤紫と葉の緑。色彩がとても豊かな広がりのある句です。
 この句が何よりも伝えてくれるのは、夏そのもの。私は少年時の夏休みが心に蘇ります。俳句という短い言葉の文芸が育んできた、季節を響かせる力を、学び大切にしていきたいと私は願います。

 ■ 出典:『俳句の花図鑑』(監修:復本一郎、2004年、成美堂出版)
 この出典による「俳句の花」の続きは、秋の風を感じる頃にまた咲かせられたらいいなと思います。

 次回からは、俳句のもうひとつの極にある、季語などの俳趣味を捨てた俳人の、自由律俳句を見つめてみます。

 ☆ お知らせ ☆
 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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