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山田句塔の自由律俳句(一)。極限での瞬間の凝結。戦場の句。

 自由律俳句を感じ取ってきました。今回からは、戦友であった詩人・尼崎安四と自由律俳句の俳人・山田句塔を通して、詩歌についての詩想を記していきます。
 以下、引用する文章と俳句の出典は、細井冨貴子『哀歌・戦友』「季刊銀花」第75号によります。(尼崎安四を師とされる詩人の諫川正臣氏がコピーを下さいました)。

 まず俳人としての山田句塔の自由律俳句の作品そのものを見つめます。山田句塔は『雑木林』(1968年・昭和四十三年)、『椰子の実』(同年)、『自解句集 椰子の実』(1974年・昭和四十九年)、『父子』(1977年・昭和五十二年)の句集を刊行しています。

 今回は、戦争に召集され、戦地で尼崎安四と交友を深めた時間に彼が詠んだ、戦場での俳です。
(次回は、敗戦で日本に戻り戦後を生きた時間に詠んだ句とします。)

● 山田句塔の自由律俳句

『新俳句』(1935年・昭和十五年六月号)、『木槿』(1943年・昭和十八年発刊)に、戦地から五十三句「前線より・濠北派遣 山田利三」として発表された作品、および『自解句集 椰子の実』 (1941年・昭和十六年以降)からの作品。出典から引用します。
一句ごとの鑑賞ではなく、作品のあとに全体を通しての、私の詩想を☆印の後に記します。

  病んで枕べに征旅久しく携えている「句集此君楼」
  炎天草枯れて枯れるばかり
  朝のうららかな干潟蟹があるく
  前線へ船団粛々星あかりの海、
  闇にごうぜんと大火柱の、消えてしまった闇
  敵兵の二人三人炎天の海ただようてくる
  黙祷、舟艇戦死体を乗せ船にかえってきた
  銃声、闇のなかに伏せそれから闇
  青葉明るく南へ来てはじめての手紙書いている
  歩哨の私へほほえみかけて窓の外人の子
  裏町ギターの音がして熱い風ふく
  死傷兵たちそこに伏せ頭上敵機旋回
  雨にあけくれ兵隊犬を捕っては食う
  月が雲に入り雲を出で朝遇うた君はいない
  海へ跳ぼうとして見た甲板の死体いくつか
  劫火のかがやきの海へさき争うて跳ぶ
  浮いて大火傷(やけど)の兵の苦悶を見ているほかない
  救援のにぎり飯一つが食べきれない
  奈落の底へ落ちゆくような、軍装のまま身を伏せ
  上陸そぼふる雨の日本の家、麦の畠
  夜のつめたい日本の水のむ

☆ 戦場という、生と死が紙一重の、一瞬さきにいつ死ぬかもしれない、極限の状況で、山田句塔は、五感に刻みこまれた、特に眼に焼けついた瞬間を、言葉で記録しています。
 俳句という極短小詩型のいちばんの特徴は、極限状況でさえ、感じたものを言葉にでき、記憶できることにあります。

 このことと表裏の関係にあるもう一つの特徴は、揺らぐ感情をたゆたわせるには詩型が短すぎるので感情そのものは言葉にしません。作者は襲いかかってくる状況をどのように捉えるかだけに徹し、瞬間そのものを短小詩型に凝結させています。そこにある感情をすくいあげることは読者に委ねています。

 歌は、心、感情、思いの流れと揺り返しを、繰り返し感じとる時間をとおして、言葉として浮かび上がり、響きだします。牛が草を食むように、思いを反すうする時間が必要です。歌は、個人の自由、心、感情、思いの自由、わがままな、個性の発露そのものだからです。極限状況で人は歌を詠めないと私は思います。
 
 もうひとつ、戦場という極限状況での、創作表現行為にとって、俳句、そして自由律俳句の姿であることが、もっとも真実を表せる形だったことです。十七文字の定型の器、季語を配し、切れ字の約束ごとに合わせて、作品を練るにも、心を自由に遊ばせる時間、余裕が必要です。戦場で、定型句は詠めないと私は思います。

 個人の自由を極限まで奪われた戦場で山田句塔は、それでも人間としての心を動かすという自由の表現、句を刻みつけ、極限状況を記録し、その瞬間を凝結させ、伝えました。彼のその強い意思を、私は尊敬します。

■ 出典:『哀歌・戦友』細井冨貴子「季刊銀花」第75号

次回は、山田句塔の戦後の自由律俳句を見つめます。

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 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。
絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
    こだまのこだま 動画  

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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同上
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同上
「愛(かな)」1993年同上
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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