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和泉式部あくがれる魂の歌

 和泉式部の和歌から、私が好きな歌をここに咲かせました。
 恋の歌も、哀傷歌も、切実な、痛切な、愛(かな)しみが心に響いてきます。歌は心の感動だと、いちばん大切なことを教えてくれる詩歌です。千年前の感動が今も心に響きます。
 和泉式部の生涯は歌だったと感じます。毎日、些細なことから魂の極まるところまで、喜びも悲しみも、楽しいことも可笑しいことも嘆きも噂話まで、感じる心のままに言葉の抑揚にのせ歌にしました。
 彼女の歌は、人の、女性の心、日常生活の近辺から命の先を思う遠いところまで、浅さから深さまで、静けさから激しさまで、揺れ動く心、いのちの豊かさを教えてくれます。
 (訳を添えることも考えましたが、良い歌は部分の古語の意味を正確につかめない場合にも、歌全体、言葉の響きが伝えてくれるものがあるので、原文のみでも共感を言葉にできる歌を選びました。)
 『和泉式部集』(以下「正集」)『和泉式部続集』(以下「続集」)、勅撰集入集歌からの抄出(数字は歌集の通し番号)です。

いたづらに身をぞ捨てつる人を思ふ心や深き谷となるらん(正集80)
☆恋も愛も喜びが高いほど失望の深い底との大きな落差に絶望し身を投げ出すのか。
       
つれづれと空ぞ見らるる思ふ人天降(あまくだ)り来ん物ならなくに(正集81、玉葉1467)
☆愛は魂のあこがれ、なぜか空を仰ぎみずにはいられないもの。

黒髪の乱れも知らずうち臥(ふ)せばまづかきやりし人ぞ恋しき(正集86、後拾遺755)
☆喜びの直後に襲うさびしさ、面影だけは間近に見えて

逢ふことを息の緒にする身にしあれば絶ゆるもいかが悲しと思はぬ(正集89)
☆恋に生きると決意したなら、たとえ死んでも。

君恋ふる心はちぢにくだくれどひとつも失せぬ物にぞありける(正集91、後拾遺801)
☆砕けても恋心の痛みのひかりは消えない。

かく恋ひば堪(た)へず死ぬべしよそに見し人こそおのが命なりけれ(正集92、続後撰703)
☆運命のひとと気づくのはなぜ遅れ、どうしようもなくなるのか。

冥(くら)きより冥き道にぞ入りぬべきはるかに照らせ山の端の月(正集151、拾遺1342)
☆月のひかり、生死を澄みわたらせてほしい。

立ちのぼる烟(けぶり)につけて思ふかないつまたわれを人のかく見む(正集162、後拾遺539)
☆いのちはひとつきり、わたしも煙に

暮れぬなりいく日(か)をかくて過ぎぬらん入相(あひ)の鐘のつくづくとして(正集289)
☆生死のあわいに響く鐘の音に心もつくづくうたれ

すみなれし人かげもせぬわが宿に有明の月のいく夜(よ)ともなく(正集296)
☆変わらぬものに失われたものが照らし出され。

世の中に憂き身はなくて惜(を)しと思ふ人の命をとどめましかば(正集339)
☆私の命をあのひとにこそ。

君は君我(われ)は我とも隔てねば心々(こころごころ)にあらんものかは(正集419)
☆愛しあうこころはまざりあった波、もう引き剥がせない。

絶えしころ絶えねと思ひし玉の緒の君によりまた惜しまるるかな(正集420)
☆愛しあえるなら生きたい。

いかにせんいかにかすべき世の中を背(そむ)けば悲し住めば住みうし(正集438、玉葉2546)
☆どうしたらいいのか、答えはなくて、ただ問えるだけ?

などて君むなしき空に消えにけん淡雪だにもふればふる世(よ)に(正集482)
☆先立った愛児への哀しい鎮魂のうた。

何事(なにごと)も心にしめて忍ぶるにいかで涙のまづ知りにけん(正集709、続古今1023)
☆涙だけにはごまかせない心が浮かんでしまう。

あらざらむこの世の外(ほか)の思ひいでに今ひとたびの逢ふこともがな(正集753、後拾遺763)
☆死んでいい、あといちどだけ。

なき人の来(く)る夜と聞けど君もなしわが住む里や魂なきの里(続集943、遺575)
☆取り残された空莫、もうなにもない。

君をまたかく見てしがなはかなくて去年(こぞ)は消えにし雪も降るめり(続集947)
☆消えた雪は今年も降ってくれたのに、なぜあなたは。

捨てはてんと思ふさへこそ悲しけれ君に馴れにし我が身と思へば(続集953、後拾遺574)
☆あなたと愛しあった心とからだ、消したらあなたも消えてしまう。

語(かた)らひし声ぞ恋しき俤(おもかげ)はありしそながら物も言はねば(続集956)
☆愛するひとの声が恋しい。

ひたすらに別れし人のいかなれば胸にとまれる心地のみする(続集964)
☆どうしてだろう、心にはあなたが。

悲しきは遅れて嘆く身なりけり涙の先にたちなましかば(続集975)
☆残されるより先に逝きたかった。

いづこにと君を知らねば思ひやる方なく物ぞ悲しかりける(続集976)
☆悲しい、どこにいってしまったの。

限るらん命(いのち)いつとも知らずかし哀れいつまで君を偲ばん(続集1015)
☆命あるかぎりあなたを思う。

君なくて幾日(生くか)幾日(生くか)と思ふ間に影だに見えで日にのみぞ経(ふ)る(続集1021)
☆あなたを忘れられず思うばかりの日々がもうこんなに。

おのがじし日だに暮るればとぶ鳥のいづかたにかは君をたづねん(続集1027)
☆鳥のように帰りたい、日暮れ、あなたはどこに。

恋ふる身は異物(こともの)なれや鳥の音(ね)におどろかされし時は何時(続集1052)
☆恋しい、眠れない。

枕だに知らねば言はじ見しままに君に語るな春の夜の夢(続集1175、新古1160)
☆ふたりだけが知る至福の時。

憂き世をば厭(いと)ひながらもいかでかはこ(子)の世のことを思ひ捨つべき(続集1215)
☆この子がいる、命すてられない。

逢ふ事はさらにも言はず命さへただこのたびや限りなるらん(続集1294)
☆生きるのも愛しあえるのも最後かもと思い尽くして。

人はいさわが魂(たましひ)ははかもなき宵(よひ)の夢路にあくがれにけり(続集1308)
☆魂があくがれる、愛(かな)しい言葉。

生くべくも思ほえぬかな別れにし人の心ぞ命なりける(続集1528)
☆別れてはじめて命のひととしるのか。

白露も夢もこの世もまぼろしもたとへて言へば久しかりけり
(後拾遺831)
☆愛しあえる時間はなんでこんなに刹那なのか。

物おもへば沢の蛍も我が身よりあくがれいづる魂(たま)かとぞみる(後拾遺1162)
☆いのち、ただ美しく哀しく響きさまよう。

 出典・参照
・ 『和泉式部集・和泉式部続集』(清水文雄校注、1983年、岩波文庫)。
・ 『やまとうた』(水垣久ホームページ)の「千人万首」。


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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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