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詩集『地獄の歌 火の聖女』と詩人(一)

 新しい年の初頭にあたり、新しい詩から発表を始めたい気持ちが強くありますが、作品は容易には生まれ笑顔をみせてくれませんので、詩について書きたいことから書き始めます。
 今回からしばらく、詩集『地獄の歌 火の聖女』詩人・森英介、本名:佐藤重男の詩をみつめ考えていきます。
 私は昨年暮れに詩人・中村不二夫さんの詩論集『詩の音』に収録された「森英介『火の聖女』」を読むまでこの詩人のことをまったく知らず、出会える機会がありませんでした。中村さんが引用された一篇の彼の詩「冬」に、彼が本来の詩人だと感じ『火の聖女』を古書を手にとりその思いを強くするとともに、このような詩人が詩を愛する人にひろく知られることなく忘れられてしまうのは、とても悲しいし、日本の詩歌にとってよくないことだとも思います。ですから、私の出来る範囲で感動を伝え、紹介したいと考えています。(このブログと同時に、ウィキペディアにも記事を書きます。)
 初回は、彼の生きざまの紹介です。以下の内容は全面的に、この詩集の復刻版に添えられた、堺誠一郎と松浪信三郎の文章により、適宜要約しました。

 堺誠一郎「森英介と火の聖女のこと」
 森英介は私より十二年下の若い友人であったが、彼は生前ついに一篇も売れなかった序詩を含む九十一篇の詩と、高村光太郎氏の序文、それに彼自身が書いた解説と跋を加えるとゆうに七〇〇頁を越える大冊の詩集を、みずから印刷工になって活字をひろい約半年かかって完成したが、仮製本一冊を手にしただけで、本が出来る二日前昭和二十六年(1951年)二月八日無名のまま三十四歳の短い生涯を終った。

 〈以下は、松浪信三郎「『火の聖女』の森英介」「詩学」昭和四十五年(1970年)十二月号初出も参照・補記しました。〉
 森は本名佐藤重男、大正六年(1917年)三月十三日、山形県米沢市生まれ。昭和十一年(1936年)早稲田大学哲学科入学、昭和十四年(1939年)中退。昭和十五年(1940年)結婚、昭和十六年(1941年)召集・浜松の航空隊入隊後、青森県三沢基地に転属、病いとなり豊橋の陸軍病院に送還され、昭和十八年(1943年)召集解除。長男、次男が生れた後、昭和二十年(1945年)の敗戦前に離婚。
 昭和十八年(1943年)豊橋陸軍病院にいるころ高村光太郎との文通がはじまり、敗戦後昭和二十一年(1946年)九月岩手県花巻の山小屋を訪ね初めて面会。同月、〈詩魂の恢復による政治文化の行動的統一と表現〉をめざして総合雑誌『労農』を米沢で創刊。第三号に、佐藤徹というペンネームで初めて詩「アヴァンギャルドの歌」を発表後この号で休刊。
 放浪後昭和二十二年(1947年)東京で彼の「火の聖女」澤由紀夫人にめぐり会った。夫人は敗戦後台湾から夫と三人の子供たちと引揚げ、社会教育関係の婦人団体に所属し、上野地下道に群がる戦災孤児や身寄りのない女性たちの世話をしていた。彼女の姿は森にとって生きた聖母マリアとして映った。このころから彼は本格的に詩を書き始め、彼の詩のほとんど全部は死ぬ前の二年間に書かれている。
 これらの詩はすべて聖女をたたえる歌である。美貌の聖女は彼にとって信仰の導き手であると同時に、肉体を持った現実の女性であり、彼は全身全霊をもって彼女に恋いこがれた。生活の面でも愛情の面でも彼は地上の幸福から遮断されることで地獄の住人でしかなく、そのことによって次第に信仰に昇華して行った。昭和二十五年(1950年)五月米沢市の日本カトリック教会で洗礼を受けた。
 詩集『火の聖女』は、彼の死後米沢で二百部発行。早大同窓の堺誠一郎の尽力により文芸評論家の武田友寿と古田暁の賛同のもと作家の井上靖、遠藤周作、詩人の田村隆一、村野四郎、井上洋治、同窓の(現・早大文学部教授)松浪信三郎の推薦文を得て、1980年北洋社の阿部礼次編集長により復刻、発行された。原詩集にある土屋輝余子のデッサン三点のうち一点も収録されている。
 
 次回から、彼の詩集と詩をみつめていきます。

 出典:『地獄の歌 火の聖女』(森英介、北洋社、1980年)。
 参考:中村不二夫「森英介『火の聖女』」(「詩と思想」2000年、8月号初出。詩論集『詩の音』2011年所収、ともに土曜美術社出版販売)。
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[C28] あけましておめでとうございます

あけましておめでとうございます
「死と生の交わり」「愛」あとがき公開された事とても嬉しく拝見させていただきました。
今年も一年お元気にお過ごし下さい
もしお時間あればまたメリーの詩ブログの方でもかまいませんので読んで感想聞かせていただけたら嬉しくおもいます。
今年もよろしくおねがいします

[C29] Re: あけましておめでとうございます

> あけましておめでとうございます
> 「死と生の交わり」「愛」あとがき公開された事とても嬉しく拝見させていただきました。
> 今年も一年お元気にお過ごし下さい
> もしお時間あればまたメリーの詩ブログの方でもかまいませんので読んで感想聞かせていただけたら嬉しくおもいます。
> 今年もよろしくおねがいします

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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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