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美しい絵と音、いのり。『地獄の歌 火の聖女』(六)

 詩人・森英介、本名佐藤重男詩集『地獄の歌 火の聖女』をみつめています。
 彼の詩集から、強く感動した詩篇全体作品と、強い響きの詩句を含む詩連を選びました。(抄)とある詩は全体ではなく、引用を略した詩連があります。またこの詩集には聖書や他の詩人の詩からの多くの詩句引用があり、詩集を構成する一部として鑑賞できますが、以下では略しています。
 今回は次の四つの詩を感じとり、私が感動したままに詩想を☆印の後に添えます。

粉雪、火の歌、蒼穹(抄)、天の花束。


 粉 雪

凍えるやうな

水晶の

何んといふうつくしさ

あなたの

ひとみ

まぢかに澄み

凍える朝(あした)の粉雪(こなゆき)に

わたしは

これで

よいと思つた。

☆ 私の詩想
 心象と言葉に描きだされ浮かびあがる表象が溶け合っている、静かな美しい絵のような短詩です。詩の長短と、詩によって初めて生まれでる世界の拡がり・膨らみは、別のものだと、教えられます。


  火の歌

宇宙のまへに裸身となつて
またとない友情を信ずるやうになりました


生きていてください。


火の気のないこの部屋に
あなたのいのちの火の歌が


いま
うまれました。

☆ 私の詩想
 冒頭の「宇宙のまへに裸身となつて」、研ぎ澄まされた心だから生まれたとても美しい詩句です。静かなおだやかな慈しみにゆれる愛の歌、いのちのいのりの歌です。


  蒼 穹

はしる
はしる

青い海
はてしない蒼穹の

飛ぶ 飛ぶ
ちぎれぐも

(略)

あゝ
あゝ

けむりときえた
わたしのいつしやう

(略)

追はるゝ
わたしの

ちぎれぐも
蒼穹!

☆ 私の詩想
 心のかなしみが、言葉の響きとイメージにより、青空をちぎれ雲となって、ながれ溶けてゆくような、美しい詩です。


 天の花束

めをあけると
すいせんがのぞいてゐる

楚々たる
きいろ

つよい
よもぎいろ

香はしき哀愍(あいみん)の
汝が黒髪(くろかみ)

ひたひ め はな くち ほゝ ゑくぼ
ましろきうなじ

おくれ毛
みゝ

貝殻!
すなはまの

真珠の
肌の

とほき嘆きの
潮騒の

波うついのち
ちゝ 柔腰 せすぢ

野の
森の

かも鹿の
愁ひ漂ふ

気高き
脛(はぎ)の

嗟(ああ)
すいせん!

あふれる
感謝

わたしは
こんなにも純粋(ひとすぢ)になりました!

神秘の
くさむら!

☆ 私の詩想
色彩が鮮やかに心に広がる美しい絵のような詩です。
「わたしは/こんなにも純粋(ひとすぢ)になりました!」この詩句があるところが、森英介という詩人を教えてくれます。おそらく多くの「現代詩人」は、全体の作品構成を壊す余分なこのような直情の言葉をいれることを厭い避けます。詩の上手さ完成度を競いあうことに興味があるからです。
 わたしは、森英介が伝えずにはいられない思いを、作品をぶち壊しながら、歌うのが、とても好きです。本来の詩人だと感じます。彼が言葉、表現を粗末にする詩人でないことは、今回引用した言葉の音楽性と絵画性で心象世界を浮かびあがらせ膨らませる美しい作品群で十分に感じとれます。
 そのうえで、詩歌にとっていちばん大切なものは何か、書かずにはいられないもの、感動が心にあるかどうか、それだけだと、私は彼の詩に教えられます。

出典:『地獄の歌 火の聖女』(森英介、北洋社、1980年、復刻版)。
*漢字の旧字体は読みやすさを考慮して常用漢字に直したものがあります。ふりがなはカッコ( )内に記し、強調の傍点は略しました。

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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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