アイヌ民族のこころを伝えようと懸命に生きた女性、
チカップ美恵子さんの豊かな詩作品集を、前回に続き紹介しつつ感じとれた私の詩想を記します。
チカップさんの美しい本
『チカップ美恵子の世界―アイヌ文様刺繍と詩作品集』(2011年9月、北海道新聞社)に織り込められた詩作品の言葉は、アイヌ文様刺繍のような肌ざわり、ぬくもりと、息づかいを伝えてくれます。
今回は私が好きなチカップさんの詩作品から
「美しい」詩をみつめ感じとります。
最初に
詩「樹液」。短い詩行ですが、言葉から、木の香り、樹液の甘さ、記憶、キトビロ(薬草)の手触りが強くたちのぼってきて、その
体感をともに感じる思いになります。
ロシアの小説家
ドストエフスキーが「作家の日記」に記している通り、文学(小説・詩)の核となり作品にいのちを吹きこみ輝かせるものは
「作者自身の強烈な印象・感動(の記憶)」です。私は文学の創作に理論も理屈も必要ないけれど、これだけは必要だと考えています。
この詩は、思いの強さがとても瑞々しく波紋をひろげ伝わってきます。
樹液 はんなり 木の香り
うっすらと
のどに広がる 天然の甘さ
ああ……
忘れていた甘さの記憶
キトビロを摘み
レタラタッニ・白樺の木の
樹木で のどをうるおす
次の
詩「いのちの花」も作者の心に焼きついた景色が心に沁みこみ心象に溶け、作者のいのちの鼓動のリズムをもつ言葉、うたとなって響きだしています。
「ウパシ・アパッポ」という
詩句の繰り返しには、
カムイ・ユーカラ(アイヌ神謡)やウポポ(歌舞詩)の血の流れを感じます。アイヌは
口承の文学を育み伝え続けてきた民族ですから、作者の心の鼓動になっているのだと思います。
アイヌ民族の世界感、いのちをみつめるまなざしと、作者の感性が響きあっている、心あらわれるような美しい詩だと私は感じます。
引用が多くなり過ぎないよう控えますが並んで掲載されている
詩「ウパシ・雪」も、とても美しいです。
いのちの花 ウパシ・アパッポ
ウパシ・アパッポ
ゆきの花
空と大地の
あいだに咲く
いのちの花
ウパシ・アパッポ
ウパシ・アパッポ
瞬間のいのちを
生きる
ゆきの花
ウパシ・アパッポ
ウパシ・アパッポ
瞬間を舞い
輝く白い花
チカップ美恵子さんの詩に息づくもうひとつの強い個性は、
ロマンチックであること、
抒情がとても豊かで泉のようになんのてらいもなく溢れだしていることです。
詩「愛のカムイトー」のは、
幻想的な美しい愛の湖への誘いの歌ですが、彼女はこの湖を信じています。このような湖を見て感じて知って育ち心に抱き続けているからこそ、素直な言葉は偽りの濁りなく詩の湖となりゆれ、ムックリ(口琴)の音が聞こえてくるのだと思います。
この湖のひろがる豊かな心の森の世界は、
アイヌ・カムイの世界、アイヌ・モシリです。美しく心洗われます。
この森と湖が、邪悪さに汚されずに、いつまでもあり続けてほしいと、私は願わずにはいられません。
愛のカムイトー (前半部19行)
愛のまろうどたちを
エメラルドグリーンのまなざしで
つつんでくれる湖が
北の大地にあるという
その湖をもとめて
まろうどたちが
果てしのない旅をするとき
森の木々たちが
愛のまろうどたちに
そっとささやく
ムックリの調べに耳を傾けなさい
ムックリの音色が
あなたを
そこへ連れていってくれるでしょう
だれが鳴らすのか
神秘の湖に
ムックリの音色が響きわたる
(略)
次回は、チカップ美恵子さんの詩の「愛と祈り」を聞きとります。
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『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年
3月11日、
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イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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