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こだまを見つけた。田川紀久雄詩集『いのちとの対話』(二)。

 詩人の田川紀久雄さんが新しい詩集『いのちとの対話』(2012年8月、漉林書房、本体2000円)を出版されました。この詩集に呼び起こされた私の詩想を前回記しました。
 今回は、詩人の肉声そのものを聴き取りたいと願います。

 すべての本の読み方は読者にゆだねられています。
 私にとってこの本は、一篇一篇の詩作品が24篇束ねられた詩集として読書するより、24の詩想の流れ、アフォリズム、想念の24の変奏曲として心で聴きとりたい本だと感じます。同じ主題、旋律、叫び、問いかけが川面に浮かび沈み流れてゆきます。いのち、生、死、愛、他者の死をきらめかせながら。
 私は一読者として、せせらぎを聴きとりたい、浮かび沈み流れ去る思いにこだましたいと、心の耳を澄ませます。この詩集から聴こえてきた、私の心に強くこだました田川さんの歌をここに響かせます。

 読者の方ひとりひとりの心に響く言葉はちがいます、ちがってよいと私は考えます。ですから、私の心がこだました田川さんの詩句のどれかに心ふるえた方は、詩集を手にとりご自分の心のこだまを見つけていただけたら嬉しいです。
 心の響きあいは心の豊かさです。樹木かおる森に生れます。こだまは心が小鳥になりさえずりだす歌だからです。

 ☆ 以下は、田川紀久雄詩集『いのちとの対話』からの引用です。
 「 」カッコ内が詩のタイトル、詩行中の、記号/は改行をあらわしています。詩行が複数行離れている場合や異なる詩連の詩行の場合は行を変えて行は開けずに引用します。

「いのちと共に」
亡くなっていったいのちは/生きているものだけが受け継ぐことができる
亡くなった魂たちも/いつも私達の周囲を取り囲んでいる/いのちは多くの眼に視えぬものに包まれている

「黒い津波」
死者と生きている者とを繋ぐのは/生きている者の死者への想いしかない/想い出すことによって/死者もまだこの世に生きていられる
いまはまず生きている者たちのために/いのちの泉をわかち合うことだ/それが死者に対する弔いにつながる

「愛おしきものへ」
哀しみや絶望は愛し合う者を失った時に訪れる/まるで宇宙空間に一人だけ放り出された気分になる/引き裂かれた痛みが全身を襲う/孤独を突き破る/どこからも音が聴こえてこない/無音の空間に突き落とされる
哭くだけ泣くしかない/笑う奴は笑うがよい/哭きたいだけ思う存分泣くしかない

「いのちとの対話」
哀しみがあるから/あなたの言葉を受け止められる/いのちはひたすらあなたの心の痛みに寄り添う
祈りの心が宇宙の中心に向けて光を放つ/いま苦しみから逃れることが出来なくても/あなたの心はきっと救われるに違いない

「笑み」
笑みはお互い同士の愛の交換なのだ/そしてお互い頑張って生きていこうという合図でもある
あの震災では多くの人達がなくなったのではない/ひとり/ひとり/の/いのちが亡くなっていった/ひとり/ひとり/の笑顔があったはずだ/その時の想い出を忘れてはならない

「笑いはいのちの宝」
笑顔で涙を流した時の顔は美しい/顔が美しい時は瞳も輝いている

「すてる」
すてる/すてる/みんなすてて/この身もなくなる
失われたいのちを/生きているものが拾う

「こころといのち」
いのちを失っても肉体は/別ないのちに変わって甦る
そう思うことによって/あらゆる生き物を愛おしく思う/特に猫たちと遊んでいる時/かつての友達のような感じになる

「永遠は今にしか存在しない」
死んでから火葬されるのはとても怖いと思う
哀しみだけが/この宇宙を満たしている

「魂明り」
いのちは生まれるのでもなく/死ぬのでもない/この世の光の中で戯れているだけだ

「混じり合ういのち」
死ぬことも生の一部なのかもしれない/そう思うとどんなに病に侵されても/病と向き合って生きていられる
卑小ないのちに無限の大きさを痛感する
生まれるいのち/死にゆくいのち/それが一体となってこの宇宙を支えている

「天使の笑い聲」
死ぬときは/「じゃ いってくるよ」/と笑みを浮かべて答えたいものだ

「いのちの絆」
自分のいのちと引き換る覚悟で/相手の哀しみと共存しあう

「愛の破片」
何もしなくてもこの天空の下で生きられる歓びを抱きしめたい

「いのちの宝」
かけがえのないもの/それが愛の心である/初恋とはそのような思いの心である
愛しい人を失ったとき/たくさんの涕が流れ/それは愛しいものへの涕でなく/自分への哀しみの涕である

「波の音」
何ものも存在しない/何ものもうまれなかったし/何ものも失ったのでない/時の経過というものはつねに朧なものにしかすぎない

「いのちが祈りを……」
この世はあまりにも多くの苦しみに満ちている/いくら祈りを捧げても/どうすることもできない/でも祈らずにはいられない

「寄り添う」
大人たちは嘘をつくことで/小さないのちが破壊されてゆくことを黙認する
黙っていてはいのちを救うことはできない

「聲(こえ)のいのち」
いのちは多くのいのちと共生することを祈る
心の苦しみそのものは救えないが/いのちそのものには寄り添うことができる


 ☆ お知らせ ☆
 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2100円(消費税込)です。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
 ☆ こちらの本屋さんは店頭に咲かせてくださっています。
 八重洲ブックセンター本店、丸善丸の内本店、書泉グランデ、紀伊国屋書店新宿南店、三省堂書店新宿西口店、早稲田大学生協コーププラザブックセンター、あゆみBOOKS早稲田店、ジュンク堂書店池袋本店、紀伊国屋書店渋谷店、リブロ吉祥寺店、紀伊国屋書店吉祥寺東急店、オリオン書房ノルテ店、オリオン書房ルミネ店、丸善多摩センター店、くまざわ書店桜ケ丘店、有隣堂新百合ヶ丘エルミロード店など。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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