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山下千江の詩。涙うかぶ、心うたれる詩。

 この約百年間に女性の詩人が生み出し伝えてくれた詩に心の耳を澄ませ聞きとっています。
 『ラ・メール 39号、特集●20世紀女性詩選』(1993年1月、編集発行人:新川和江・吉原幸子、発売:思潮社)に採録されている詩人の一作品・一輪の花たちのなかから、私が好きな、木魂する思いを揺り起こされた詩について、詩想を記しています。

 今回の詩人は山下千江(やました・ちえ、1916年大正5年生まれ)です。
 略歴には、詩集『印象牧場』『見知らぬ人』『ものいわぬ人』『昭和詩大系・山下千江詩集』歌曲集『じぁがたら文』他と記されています。

 正直な告白をすると、私にとって、読んで涙が浮かんでしまう、泣いてしまう作品こそ、いちばん好きな、大切な、愛する、良いと感じる詩です。
 
 詩は言葉の音楽による感動だと思っていて、感動は、愛情、恋心、楽しみ、おかしみ、笑い、喜び、微笑み、怒り、嘆き、そして悲しみとさまざまな表情をもつ、とても豊かな人間の心の花々ですので、いろんな花があって、どの花も心に深く強くまっすぐに根ざしているなら、いいな、好きだなと、心ゆれてしまいますが。
 そのうえで、いちばんなのは、涙が自然に浮かんでしまう、うっと、胸がつまる詩です。

 山下千江の詩は、私にとってそのような詩でした。私が初めて出会えたのは次の作品です。
 とても静かな筆づかいで、第三者の視線で、外側から情景を描いているのが特徴的です。
 とても悲しく、美しく、心打たれます。


  わかれ
         山下千江


ふくらみかけた紅梅に姿よく雪がつもった朝
ベットの母に一枝折ってかざしてみせた

母の口がきけなくなってから
母娘はお互の眼の奥をのぞきこんで
言葉よりも重い会話を交しあった

娘がなぜわらいながら蕾(つぼみ)の枝をかざし
つもった雪をみせようとしたかを
母は深く受取ってこくりとうなずいた。

涙よりもつづきのない
つめたい「その日」がもう遠くはないことを
紅梅の紅は娘にかわって母に語りかけた
母はなぜ娘が「わらって」いたかを理解して
 小さく泣いた

その泣声を娘は終生忘れ得ないであろう
深く 重く そしてあわれにも浅い縁(えにし)

そういうものであった
 (母と子というものは)

野路の紅梅が一輪
ふっくり開いた朝
母の頬は白く冷たくなって
閉じた眼は
もう花の色をみることが出来なかった

娘はまだぬくもりのさらぬ母の懐に一枝の紅梅を抱かせ
声をのんで泣いた

そして今度は自分で
「さようなら お母さん」
              といった


 もう一篇を『女たちの名詩集 ラ・メールブックスⅡ』(新川和江編、新装版1992年、思潮社)で読むことができました。
 私にとって、読んで涙が浮かんでしまう、泣いてしまう作品でした。
 今回はこれだけ記して、ゆっくり詩の花を見つめていただけたらと思います。
私もこの詩をくり返し見つめにくると感じます。


  お団子のうた
 ――母とは何故こうもあわれが残るものなのか――
              山下千江

病弱な小さい娘が育つように と
後家になりたての若い女は
笠森稲荷へ生涯のお団子を断った

神仏を信じるには
神仏にそむかれすぎた母が
その故に迷信を一切きらった母が
「断ちもの」をしたということに
娘はいつも重い愛情の負い目を感じてきた
串がなくとも丸いアンコの菓子に
「××団子」とうたってあれば
老いても女はかたくなにそれを拒んだ
「約束は守るためにするもの」
せっぱつまった愚かな母の愛を
賢い人間の信条が芋刺しにして
女の幸うすい一生は閉じられた

毎月十七日
娘は母の命日に必らずお団子を供えるのだ
 義理固かったお母さん
 あなたはいろいろな約束を守りすぎて
 身動きの出来ない人生を送りましたね
 でも もう みんなおしまい
 あなたを苦しめぬいた人間の約束事は
 人間でなくなったあなたには無用のもの
 さあ 一生涯分お団子をたべて!

明治の女の律気なあわれさ
娘は片はしからお団子をほほばっては
親のカタキ 親のカタキ と
とめどのない涙をながしつづけた


 次回も、女性の詩人の作品に心の耳を澄ませてみます。


 ☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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