Entries

詩人・尼崎安四(一)。詩はいのちの生き様。

 今回と次回は、詩人・尼崎安四(あまさき・やすし)の、とても心に響く詩を紹介します。出典は『定本 尼崎安四詩集』(1979年、彌生(やよい)書房)です。
 彼のような本当の詩人が忘れられ埋もれてしまうことは、詩を愛する者にとってとても不幸なことです。それだけにこの本を出版された出版社の方、そして尽力された詩人や友人の方を尊敬します。その方々、高橋新吉、富士正晴、諌川正臣らが附録に寄せている文章はどれも熱い真心が込められていて感動せずにいられません。

 敗戦後の現代詩は、「荒地」や「列島」によった詩人たちや彼らの弟子、迎合者ばかりが評価されています。もちろん、私も読み理解しようと努めました。でも心を打たれ感動する作品は多くありません。ジャーナリストであっても、本当の詩人ではなかったからだと思っています。この尼崎安四のような優れた詩人を埋もれさせて平気な人たちを私は詩人と思えません。
 森英介や原民喜、峠三吉、作品が詩そのものだと私が感じ敬愛し評価する詩人については、これまでブログでとりあげてきましたので、読み返していただけたら嬉しく思います。
 
 尼崎安四は、まだあまり知られていませんので、最初に出典の本から彼の年譜を引用します。戦争でフィリピン沖で戦死し会うことができなかった私の母方の祖父と同年齢です。(私は祖父への想いから育まれる詩を今書いていて近日公開したいと考えています。)
 作家の野間宏の戦後すぐの小説『顔の中の赤い月』や『崩壊感覚』に、私は20歳の頃強い影響を受けました。野間宏らの同人誌に尼崎安四が詩を寄せていたことを知り、時の流れと出会いを想わずにいられません。

尼崎安四(あまさき・やすし)年譜
1913年・大正2年、大阪市生まれ。
1931年・昭和6年、18歳、僧になろうと龍谷大学、失望し中退。
1934年・昭和9年、21歳、同人誌「三人」七号に詩を掲載。富士正晴、野間宏ら。
1937年・昭和12年、24歳、京大文学部入学。
1938年・昭和13年、25歳、高橋凉香と結婚、長女瑶子出生。
1940年・昭和15年、27歳、京大卒業を放棄。
1941年・昭和16年、28歳、将校を望まず二等兵として出征。
満洲、パラオ、フィリピン、ボルネオ、ジャワ、ニューギニア、ラングールを転戦。
軍事郵便に詩を書いては妻や友人に送る。
1946年・昭和21年、33歳、帰国、妻の郷里の愛媛県西条市に居住。
同人誌「地の塩」を諌川正臣らと始める。過去の日記・ノート類の殆どを焼却す。
1947年・昭和22年、34歳、長男彬出生。
1950年・昭和25年、37歳、詩集『微笑みと絶望』を自ら編む。
1951年・昭和26年、38歳、『微塵詩集』を編む。
1952年・昭和27年、38歳、骨髄性白血病で歿す。

 今回は、出典の中で、私がいちばん好きな、いいと感じる詩「お母さん泣くのはよして下さい」を紹介します。
詩誌「たぶの木 5号」に詩人の田川紀久雄さんが選ばれ掲載しています。(私のホームページ『愛のうたの絵ほん』でも、こちらから、ご覧になれます)。
 私も彼の作品を一篇選ぶなら、この作品を選びます。

 彼のいのち、生き様そのものが、母への愛に洗われながら裸の姿で歌われています。とても強い詩です。
 そして、言葉の調べが美しい歌です。くりかえしのリフレインが大きな波のようにゆれ、波頭では言葉の音色がなめらかに繋がりささめき輝いています。(カッコ内のふりがなは、私が加えました。)


  お母さん泣くのはよして下さい
                    尼崎安四

あゝ お母さん 泣くのはよして下さい
そんな惨(いた)ましい声はあげないで下さい
一生孤独を求めながら得られないで
さりとてなりはひのすべも覚えず
真実 阿呆(あほう)のままのこのみすぼらしい私の姿

それでもお母さん 泣くのはよして下さい
私には私の生き方があると思つてゐます
人間の世界に通用しなくても
もしかしたらけだものの世界に通用するかも知れない
あなたの子供はほんたうに正直に生き抜いてきました

だからお母さん 泣くのはよして下さい
神様がきつとお許し下さるに違ひありません
人間の姿に佯(いつわ)りが多いなら
四つ這ひになつて森に住むのもいいでせう
何万何億といふはつぱや枝が一様(いちよう)に静かな歌を唄つてゐます

あゝ お母さん 泣くのはよして下さい
私の心は非常に静かなのです
少しは生きる姿がぶざまであつても
あなたの子供は今 狐(きつね)のやうに幸福なんですよ
だから お母さん 泣くのはほんとによして下さい

 次回は、尼崎安四の愛の詩をみつめます。

☆お知らせ 『定本 尼崎安四詩集』の朗読が聴けるかもしれません。
詩語りライブ 第11回 いのちを語ろう
日時 2013年5月18日(土)14時
より(13時40分開場)。
プログラム
野間明子  八木重吉詩集より・他
坂井のぶこ 麻生知子詩集、坂井のぶこ詩集『浜川崎から』より 
田川紀久雄 田川紀久雄『慈悲』、『定本 尼崎安四詩集』より

場所 東鶴堂ギャラリー(JR鶴見駅徒歩5分、京浜急行鶴見駅徒歩2分)
横浜市鶴見区鶴見中央4-16-2 田中ビル3F(TEL045-502-3049)
料金 2000円
問合せ 044-366-4658 詩語り倶楽部

関連記事
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
https://blog.ainoutanoehon.jp/tb.php/568-82b13f92

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

最新記事