花の名を詠んだ俳句を見つめています。出典は、『俳句の花図鑑』(監修:復本一郎、2004年、成美堂出版)です。入門書ですので、花の名にも俳句にも詳しくなくても、美しい写真を眺めながら楽しく読むことができます。俳人は季語として花の名をいつも意識するからでしょうか、季節の移ろいに咲く花の姿をとてもよく知っていて素晴らしいなと、私は素直に感じます。」
初春から夏の終りまで順に、どちらかというと知らない人もいるような花を主に、出典にあげられたさまざまな俳句から私の心に響いた句を選び、いいなと感じたままの詩想を☆印の後に記します。
今回は、仲夏、晩夏の、花の名を詠み込んだ俳句です。
●仲夏
門に待つ母立葵より小さし(かどにまつははたちあおいよりちいさし)
岸風三樓☆母親を愛おしむ想いが滲みでて心うたれる句。母は年老い背が小さくなってゆく、家の門に空に向かい花開く立葵より小さいことに気づく哀しみ。同時に母、母のいのちを美しい花としてみつめています。
調べには母音の変調があります。前半部は「kAdonitAtuhAhA tAchiAoi」愛のあたたかな気持ちを母音アA音が連続して奏で、後半は「aoIyorI chIIsaSI」淋しい想いが母音イI音に静かに溶け沁みてゆくようです。
原爆の地に直立のアマリリス(げんばくのちにちょくりつのあまりりす)
横山白虹 夾竹桃ピカドンの日をさりげなく(きょうちくとうピカドンのひをさりげなく)
平畑静塔☆広島の原爆の悲惨を直視した文学者の
原民喜に
小説『夏の花』があります。これら二句を読むと私は「夏の花」という言葉と、広島、長崎の被爆された方々の悲しみと苦しみと嘆きと絶望を、思わずにいられません。
八月、強く眩しい陽射しに咲く花。アマリリス、夾竹桃、それぞれの花の句は、客観的に咲く花の姿を描写していますが、「直立の」、「さりげなく」という短い詩句に、苦しみ、悲しみに折れず、途絶えず、超えて、美しい花は、その生まれ持った姿で、ぞれでも咲くんだ、だから人間もまた、という願いが、ふるえ咲いていると私は感じます。
銀竜草滝のしぶきを摘みきしや(ぎんりょうそうたきのしぶきをつみきしや)
宮津昭彦☆花に呼び覚まされた感動をそのまま言葉にしていますが、イメージと音が溶け合い、その感動を高めています。
「滝のしぶき」という鮮烈な輝きのイメージ。「taKIno SIbuKIo tumIKISIya」は細く締まる母音イI音を主調に、鋭く弾ける子音S音と「シSI」、子音K音と「キKI」となり、リズミカルに音の飛沫となって弾けています。
●晩夏
白根葵咲けりといふよ山彦も(しらねあおいさけりというよやまびこも)
水原秋櫻子 白根葵うすむらさきは遥けき花(しらねあおいうすむらさきははるけきはな)
林翔☆高原の美しい花、高嶺の花、シラネアオイ。花びらは薄く儚げで破れそうな花。
一句目は、「山彦」から聞いたよと、のびやかな牧歌調、童謡調で、心が優しくなります。
二句目は、「遥けき」という文語調に、女性への愛、美への憧れ、遥かなものを想う詩心がふるえています。
どちらも、この花そのもののように、美しく咲いていて、とてもいいなと感じます。
■ 出典:『俳句の花図鑑』(監修:復本一郎、2004年、成美堂出版) 次回も、美しい俳句の花を見つめます。
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