前回まで、俳句という文芸に固有な
季語のうち、
花の名を季語とする美しい俳句の花を感じとってきました。
今回からは一転して、季語に捕らわれない新しい俳句を創ろうとした四人の俳人を見つめ、その作品を感じとります。
俳句という文学形式について、季語だけでなく、根幹にある
音数律(5音7音5音の十七音)、たとえば、「ふるいけや(5音)、かわずとびこむ(7音)、みずのおと(5音)」この音数律の型をも壊して、新しい俳句を創り出そうとしました。
自由律俳句です。
もう一点、当初は文語交じりでしたが次第に口語表現を見つけていきました。
口語自由律俳句です。
私が書いている詩も明治時代の、文語定型詩から、口語自由律詩へと移り変わってきました。俳句の口語自由律と同じ方向性への歩みといえますが、短詩形文学の短歌と俳句は、字余り、字足らずを許容し、時に破調さえ生まれはするものの、今なお文語定型律が詠まれ続けていることからもわかるように、音数律はその文学形式そのものとも言える強く硬い枠組みです。
十七音が俳句、三十一音が短歌、と言い切れるほどの強さの揺るぎない。
今回はまず、
中塚一碧楼(なかつか・いっぺきろう、明治二十年・1887年~昭和二十一年・1946年。岡山県生まれ)の自由律俳句の宣言ともいえる言葉を、出典から引用し、彼の志に感じた私の詩想を記します。
出典からの引用
● 一碧楼の自由律宣言「俳句ではない」(大正二年、1913年、「第一作」第七号)
「私の詩を俳句だと云ふ人があります。俳句ではないと云ふ人があります、私自身は何と命名されても名なんか一向構はないんです。(中略)私の詩は今迄言ふ俳句とは全く立脚点を異にして居るのです、第一私は俳句から最も大切な季題趣味といふものを何とも思つて居りませぬ。(中略)私は全然季題の囚はれから脱し得たと自信して居ます。私の書いた詩に季語があるから俳句と見られ、季語が無いから俳句ではないと云ふ様にみられる事は私は最もつらい事なんです。(中略)形式が十七字そこらにならうと、三十一字そこらにならうと幾字にならうと構ひませぬ。」
● 出典 『俳句の歴史 室町俳諧から戦後俳句まで』(山下一海・1999年、朝日新聞社)十七.自由律俳句の誕生。 私はいま
口語自由律詩を書いています。文語定型詩、文語自由律詩と、詩人たちが手探りし言葉を磨き生み出してきた作品群に連なる形で。
ただ近代詩の発端の
新体詩は西欧詩を輸入して真似た翻訳詩にあるので、伝統に深く根ざしていません。漢詩や和歌や俳句とは断絶した、新しい時代の新しい詩という意識が強く働いていたと思います。
一碧楼の言葉に私はとても強く共感します。季語、音数十七音が俳句という詩型の枠組みが強固なだけに、強い意思が必要であったと思います。
彼のいう、季語を捨て、音数「形式が十七字そこらにならうと、三十一字そこらにならうと幾字にならうと構ひませぬ」、その詩歌は、口語自由律の詩歌、口語自由詩そのものです。
ですから、新体詩からの近代詩の歩みと、口語自由律俳句は、違う出発点から歩いてきたけれど、交わっていると私は思い、感じます。
文語定形律俳句からの歩みは、きつい拘束、縛りから抜け出そうとする格闘が、私にはとても魅力的です。なぜなら、文化の断絶の傲慢な宣言は
根ざし草に過ぎず、不毛だと私は考えるからです。現代詩のように。
記紀歌謡の時代、万葉集の和歌につながる土壌から詩歌の花は開く、その時代に使われた言葉、詩句は、今も生きています。とても素晴らしいことです。謙虚に受け継ぎつつ、新しい表現の仕方を探し、見つけようとすることが、詩歌の花をいつまでも豊かに咲き続かせることだと私は思います。
だから私は、
古代の自由律歌や、
長歌、
歌物語や
日記文学、
随筆の伝統、それぞれの優れた特徴を引き継ぐものと意思して、詩歌を創作しています。
だからといって、詩歌、文学は、花。咲いたその姿そのものが、美です。
詩論も、どのように創ろうと考えるかの主張も、咲いた花が美しく、心ふるわせるものであって初めて意味をもちます。
次回は、中塚一碧楼の自由律俳句そのものを、より深くみつめます。
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