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荻原井泉水。象徴の詩。自由律俳句(四)

 今回は自由律俳句を切り拓いたもう一人の俳人・荻原井泉水(おぎわら・せいせんすい、明治十七年・1884年~昭和五十一年・1976年、東京生まれ)を通して、自由律俳句を感じとります。
 最初に出典から、彼が俳句をどのように捉えていたかが、よく伝わってくる言葉を引用します。

● 以下、出典「井泉水の自由律俳句」からの引用です。

「一つの鍵」大正三年、一九一四年、『自然の扉』
 「俳句は印象の詩である。ただ、目に触れた印象を印象的に表白したといふだけではつまらない。その印象は如何に小さいものであつても、大きな自然を思はせるものでなくてはいけない。(中略)これを巨細な描写をしても駄目である。却つてそのものを失ふ。これは短い言葉で暗示的に表現してこそ初めて其心持を伝へることが出来る。
 俳句は印象より出発して象徴に向ふ傾きがある。俳句は象徴の詩である。」(引用終わり)。

 私は最後の言葉は、俳句の本質を捉えていると思います。「俳句は象徴の詩である。」。印象の強さと、短い言葉で暗示的に表現してこそ、俳句という文芸を、その強み、奥行き、深みである「象徴」にまで高められるのだと感じます。
 彼が自由律俳句という新しい方向に進みながら、「短い言葉」から踏み外さなかったのは、伝統の十七音の長さに捕らわれたためではなく、短いからこそ象徴に高められるという本質を体感していたからだと私は思います。

 口語自由詩での長詩の創作に私は拘りを持っていますので、言葉は長く費やすほど、少なくとも詩行においては象徴性が薄められていくと思います。(ですから長い作品そのものを象徴にまで高めることに私は情熱を注ぎ込んでいます。)

 次に、このような俳句観にたって彼が生み出した俳句から、私が印象深く好きだと感じた数句を引用し詩想を◎印の後に記します。

● 以下俳句は出典からの引用です。

  力一ぱいに泣く児と啼く鶏との朝

◎「象徴」は意味の明確性とは対称にあり、なんとなく感じとるものです。冒頭句「力一ぱいに」が印象強く最後まで響きます。音楽性に富み、「泣く、啼くNAKU」の繰り返し、「児とkOTO」と「TOriTOnO」は母音オO音、特に「とTO」音が、リズム感を生み出しています。

  みどりゆらゆらゆらめきて動く暁

◎この句の魅力は音楽性「ゆらゆらゆら」に感じます。

  けふはいちにち光なき海が悶え寄る

◎彼のいう、強い印象そのものの句で、「悶え寄る」という擬人化の詩句から立ち昇る「象徴」そのものは読者に委ねられています。男性としての私の感覚からは海に女性が重なりますが、読者の自由です。俳句は作者による意味、イメージの限定が弱く、読者の自由度が高い文学だと思います。

  冬日きらめき魚引き上ぐる君らの裸

◎この句は逆に、漁師の動きを絵画的な情景として描いている分、読者の自由度は狭く、一枚の絵を目の前にするかのような句だと思います。

  かなかな鳴きつぐかなかなはなくてふと暮るる

◎音楽のような句でせみの鳴き声に包まれます。「かなかなKANAKANA」、「なNA」の音が響きわたったあと、「なくて」で急転し、「ふとくるるfUtokUrUrU」と静かな「ウU」音に静まってゆきます。調べの美しさ、情景が溶け、象徴に高まっています。

  空を歩む朗々と月ひとり

◎擬人化をまじえた叙景だけの句ですが、心象風景と重なり合う、象徴の句だと感じます。

  妻の追憶のすつぱい蜜柑を吸うてゐる

◎「つま」「ついおく」の「つtU」、「すっぱい」「すうて」の「すsU」、母音「ウU」音が主調に静かな調べが、追憶の思いのさびしさを震わせています。

  仏を信ず麦の穂の青きしんじつ

◎「信ず」「しんじつ、真実」、観念、理念の言葉を織り交ぜながら、押し付けがましさや説教を感じさせないのは、「麦の穂の青き」が、象徴になりえているからだと感じます。

  自分の茶碗がある家に戻つてゐる

◎しみじみとした感慨の句。自由律俳句だからこその味わいがあります。

 荻原井泉水は92歳でなくなりました。彼の弟子の尾崎放哉と種田山頭火を見つめる前に、次回は井泉水の戦後の句を通して、自由律俳句を感じとります。

出典『俳句の歴史 室町俳諧から戦後俳句まで』(山下一海・1999年、朝日新聞社)十七.自由律俳句の誕生。

 ☆ お知らせ ☆
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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