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雨宮雅子。高嶋健一。田井安曇。歌の花(二五)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

● 雨宮雅子(あめみや・まさこ、1929年・昭和4年東京生まれ)。

たましひはここに遊ぶと菜の花のうすあかりを黄のひとうねり  『鶴の夜明けぬ』1976年・昭和51年
さくらばな見てきたる眼をうすずみの死より甦(かへ)りしごとくみひらく  ◆『悲神』1980年・昭和55年
百合の蕊(しべ)かすかにふるふこのあしたわれを悲しみたまふ神あり  ◆
生き残る必死と死にてゆく必死そのはざまにも米を磨ぎゐつ  ◆『雲の午後』1997年・平成9年

◎クリスチャンであるこの歌人の歌には、この世ではない世界、霊的な存在を感じとり歌う意思が流れています。
一首目は、菜の花の黄のうねりが美しく心に拡がりますが、歌人はそのうごきに何者か、誰かのたましいを感受します。
二首目は、桜の咲く世界に、死後の世界の景色を重ねて、感受しています。この歌人の感性はそのように感受してしまう、という表現が正確かもしれません。
三首目は、より直接的に信仰者として「神」を感受していることを記します。信仰告白の言葉ともとれます。
四種目も、この歌人が絶えず死をみつめ意識して生き生活していることを歌います。この世のほうが仮の世、見えない真の世界があると歌っている気がします。
読者が信仰を同じくするかどうかで、これらの歌に感じる思いは大きく分かれると思います。信仰と文学について考えることを促される歌人です。

■ 高嶋健一(たかしま・けんいち、1929年・昭和4年神戸市生まれ)。

愛うすくなりつつ旅をつづけ来て支線分るる駅に別れき  『甲南五人』1956年生まれ・昭和31年
◎男女の愛の機微を象徴的に歌っていると感じます。歌われた意味・イメージのままの駅での別れは、より広がりのある男女の愛の旅の終りまでの象徴でもあるようです。

てのひらのくぼみにかこふ草蛍移さむとしてひかりをこぼす  『方向』1977年生まれ・年昭和52年
立ちあがるものの気配や桔梗の藍とどこほる庭土のうへ  ◆『存疑抄』1990年・平成2年
◎これら二首は、この歌人の感性の細やかさを響かせています。心に映像が鮮明に映し出され、蛍や桔梗の微かな息遣いが聴こえてくるようです。

■ 田井安曇(たい・あずみ、1930年・昭和5年長野県生まれ)。

大学を出ていぬと罪のごとく云われ鳴り止まぬ風の街帰りゆく 『木や旗や魚らの夜に歌った歌』1974年・昭和49年
◎「鳴り止まぬ風の街」という詩句に、情景の表象と、心象風景を重ね、歌っています。

闇にまぎれて帰りゆくこのよるべなきぼろぼろをわれは詩人と呼ぶ  ◆『水のほとり』1976年・昭和51年
◎歌われた意味内容、この歌人の生きづらさ、苦みの感覚を、詩句中多く散らばる濁音「ぎ」「べ」「ぼ」「ぶ」、濁る響きが、強めています。

素のからだよこたはるときかなしかるからだはありつくらやみにして  ◆『春の星』1996年・平成8年
◎末句の「くらやみにして」は、横たわっている自らのからだの周りの暗闇と、からだそのものをそのなかまで暗闇として感じる感覚の混ざり合ったもののように感じます。冒頭の一文字以外をすべて「ひらがな」としているのも、この感覚と心のかなしみの模様を、やわらかな曲線のかたちで表現しています。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

 次回も、美しい歌の花をみつめます。
 ☆ お知らせ ☆
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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