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「アイヌ神謡集」と「知里幸恵ノート」(4)アイヌのupopo(ウポポ)、神歌

知里幸恵は、金田一京助へアイヌのウポポ・神歌について「知里幸恵ノート」で次のように記しています。参照資料「知里幸恵ノート」北海道立図書館所蔵北方資料デジタルライブラリー「知里幸恵ノート」北海道立図書館所蔵北方資料デジタルライブラリー「upopo(ウポポ・神歌)やRimse(リムセ・その踊り唄)はたくさんありますが何の訳(やく)かわからないのが多々ございます。とにかく、これはみんな神を讚美する一つの美しい詩であると...

「アイヌ神謡集」と「知里幸恵ノート」(3) 「美(イ)い」と「美しい」のこと

知里幸恵「アイヌ神謡集」一編目の「銀の滴降る降るまわりに」の冒頭に子どもたちの印象的な呼びかけ声「ピリカ チカッポ! カムイチカッポ !」があり、岩波文庫本では「美しい鳥! 神様の鳥!」です。私はこの本で読んできたので「美しい鳥」と幸恵が記したのだと、ずっと思っていました。優れたアイヌ文法書の著者幸恵の弟の知里真志保も同じユーカラを訳していてこの箇所の一句目は「美しい小鳥!」と日本語にしています。私は、真...

「アイヌ神謡集」と「知里幸恵ノート」(2)Pirka(ピリカ)のこと

「アイヌ神謡集」の詩句、「美(イ)い鳥」の彼女のローマ字筆記は、pirka chikappo と記されており、「pirika」の誤植ではないかと、気になっていました。□参照資料リンク「知里幸恵ノート」 北海道立図書館所蔵北方資料デジタルライブラリー北海道立図書館所蔵北方資料デジタルライブラリーの画像7「銀の滴降る降るまわりに」の冒頭。下から6行目 "Pirka chikappo! kamui chikappo!「美い鳥! 神様の鳥!彼女の弟の知里真志保(...

「アイヌ神謡集」と「知里幸恵ノート」(1)知里幸恵と金子みすず

 「知里幸恵ノート」は知里幸恵(ちりゆきえ1903~1922年)が祖母や伯母から聞き覚えたアイヌ語口承文芸をローマ字で綴り日本語訳した自筆のノートで、「アイヌ神謡集」原稿の基礎となったものです。(出版本印刷のための原稿は紛失)。 彼女は金子みすずと同年の生まれで、ともに短い生涯でありながら心に響く美しい詩を書きのこしてくれました。アイヌの神謡、カムイユーカラは、童謡、童話にとても近くて、優しく、澄んでゆく。...

まりもの歌。伊賀ふでさんの詩(三)。

 アイヌ民族のこころを伝えようと懸命に生きた二人の女性、母と娘の豊かな詩作品集を紹介し、感じとってきました。 前回に続き、詩集『アイヌ・母(ハポ)のうた―伊賀ふで詩集』(2012年4月、現代書館)を読みとります。 著者は伊賀ふでさん、チカップ恵美子さんの母です。編集は詩人の麻生直子さんと、北海道新聞社編集局写真部の植村佳弘さんが、心を込めとても丁寧に編んでいらっしゃいます。 今回は伊賀ふでさんの、日本語の...

アイヌの母の子守唄。伊賀ふでさんの詩(二)。

 アイヌ民族のこころを伝えようと懸命に生きた女性の、豊かな詩作品集を紹介し感じとってきました。 前回に続き今回は、詩集『アイヌ・母(ハポ)のうた―伊賀ふで詩集』(2012年4月、現代書館)を見つめます。 著者は伊賀ふでさん、チカップ恵美子さんの母です。編集は詩人の麻生直子さんと、北海道新聞社編集局写真部の植村佳弘さんが、心を込めとても丁寧に編んでいらっしゃいます。 前回、母から娘に受け継がれたアイヌのウポ...

アイヌのウポポ。母と娘の虹の歌。伊賀ふで詩集(一)

 アイヌ民族のこころを伝えようと懸命に生きた女性、チカップ美恵子さんの豊かな詩作品集を紹介しつつ感じとれた私の詩想を記してきました。 今回は彼女のひとつの詩を最後に紹介すると同時にその詩から、彼女の母の伊賀ふでさんの詩へと、虹の橋をかけたいと思います。 チカップさんの美しい本『チカップ美恵子の世界―アイヌ文様刺繍と詩作品集』(2011年9月、北海道新聞社)には、美しいアイヌ文様刺繍の写真が咲きにおってい...

アイヌ・モシリ、愛と祈り。チカップ美恵子の詩(三)

 アイヌ民族のこころを伝えようと懸命に生きた女性、チカップ美恵子さんの豊かな詩作品集を紹介しつつ感じとれた私の詩想を記しています。 チカップさんの美しい本『チカップ美恵子の世界―アイヌ文様刺繍と詩作品集』(2011年9月、北海道新聞社)に織り込められた詩の言葉は、アイヌ文様刺繍のような肌ざわり、ぬくもりと、息づかいを伝えてくれます。 今回は私が好きなチカップさんの詩に響いている「愛と祈りと死」の主題をみ...

美しい森と湖。チカップ美恵子の詩(二)

 アイヌ民族のこころを伝えようと懸命に生きた女性、チカップ美恵子さんの豊かな詩作品集を、前回に続き紹介しつつ感じとれた私の詩想を記します。 チカップさんの美しい本『チカップ美恵子の世界―アイヌ文様刺繍と詩作品集』(2011年9月、北海道新聞社)に織り込められた詩作品の言葉は、アイヌ文様刺繍のような肌ざわり、ぬくもりと、息づかいを伝えてくれます。 今回は私が好きなチカップさんの詩作品から「美しい」詩をみつ...

アイヌ文学についての詩想とエッセイ (過去分再録)

 今、アイヌのふたりの女性、チカップ美恵子さんと伊賀ふでさんの詩集を読みとっています。 アイヌの世界観と文学を教えてくれた敬愛する方、アイヌ・ユーカラ、アイヌの文学者について、これまで私が書いたエッセイ・詩想を、ここでとりまとめておきます。 (今回は新しい記事執筆ではなく備忘・読み返しのための、過去執筆記事のリンク採録です。)  『アイヌ神謡集』序、知里幸惠(一)   知里幸惠(二)遺稿「日記」 ...

アイヌの祈りうたの織物。チカップ美恵子の詩(一)。

 アイヌ民族のこころを伝えようと懸命に生きた女性、チカップ美恵子さん、そして彼女の母の伊賀ふでさん、今回からの数回は、二人の豊かな詩作品集を紹介しつつ感じとれた私の詩想を、記します。 はじめに娘のチカップ美恵子さん、チカップはアイヌの言葉で鳥、彼女の羽ばたきを見つめます。同じ時間を生きながら、チカップさんの作品やご活動を知らずにいて、2010年急性骨髄性白血病で61歳でお亡くなりになった後になって初めて...

アイヌ文学『レラコラチ 森竹竹市遺稿集』

 アイヌとしての誇りと魂を歌いあげた三名の方の作品を、『現代アイヌ文学作品選』から摘み、ここ「愛(かな)しい詩歌に咲かせています。私が良いと感じるままに選びました。 最終回は、森竹竹市(もりたけたけいち、1902年~1976年)の作品です。 彼の『原始林』の序は、アイヌの宗教と芸術を端的に教えてくれます。彼は、イオマンテの詩など、その豊かな世界観と生き様を、心打つ詩作品で伝えてくれます。 詩「アイヌ亡びず...

アイヌ文学『コタン 違星北斗遺稿』

 アイヌとしての誇りと魂を歌いあげた三名の方の作品を、『現代アイヌ文学作品選』から摘み、ここ「愛(かな)しい詩歌に咲かせています。私が良いと感じるままに選びました。 二回目は、若くして病のうちに亡くなった、違星北斗(いぼしほくと、1902年~1929年)の作品です。 彼の短歌についての思いは「私の短歌」に書かれたとおり、念願が迸り出た歌です。だからこそ、悲しみの歌も痛く響いてきます。優しい魂の持ち主だっっ...

アイヌ文学『若きウタリに』バチェラー八重子

アイヌの豊かな世界観と文化を知里幸惠の『アイヌ神謡集』を中心に考えてきました。彼女と通じ合う思いを抱いて、アイヌとしての誇りと魂を歌いあげた三名の方の作品を、『現代アイヌ文学作品選』から摘み、ここ「愛(かな)しい詩歌に咲かせます。私が良いと感じるままに選びました。これらの花たちの歌声はそのまま作者の思いと共に風に揺れている、と感じます。(作者の経歴や時代背景については、川村湊の解説で理解が深められ...

『アイヌ神謡集』知里幸惠(四)

 知里幸惠の『アイヌ神謡集』を私はとても好きでいろんな思いを書き記してきました。今回はそのまとめとして、まだ書き残していること、伝えたいことを拾い集めます。 まずこの本に彼女が込めた心を少しでも伝えたいので、収められた13篇の神謡の目次を書き留めます。(ローマ字はアイヌの言葉の音を幸惠が文字にしたものです)。  AEKIRUSHIKamuichikap kamui yaieyukar, “Shirokanipe ranran pishkan”Chironnup yaieyukar, “To...

『アイヌ神謡集』2作品。知里幸惠

 知里幸惠編訳『アイヌ神謡集』についての思いを記し てきました。 彼女の魂を込めた神謡から短い作品2篇を、ここ「愛(かな)しい詩歌」に咲かせます。 2篇とも、幸惠がローマ字表記を学びつつ神謡の言葉の音を文字に したものを先に、続けてその神謡の心を日本語の表現として創作した作品を掲載しています。Terkepi yaieyukar, “Tororo hanrok hanrok!”蛙が自らを歌った謡「トーロロ ハンロク ハンロク!」 これはアイヌ神...

口承文芸としてのアイヌ神謡

 今回は、口承の文化・文芸としてのアイヌの神謡を見つめなおします。 狩猟生活に生き文字を持たなかったアイヌの人たちは、口承の文化・文芸の豊かな森を受け継いできました。節を持たずに語り継がれた昔話もこの他にありますが、私の最も好きで、アイヌの心の詩だと感じている神謡について考えます。 知里真志保(ちり ましほ)は、「神謡について」で、「折返(リフレイン)を以て謡われるということが,神謡においては必須...

アイヌ神謡の優しさの豊かさ

 知里幸惠(ちり ゆきえ)の『アイヌ神謡集』をより深く心に響かせるために、まずアイヌ神謡(カムイユーカラ)の特徴と素晴らしさを考えます。 幸惠の実弟の知里真志保(ちり ましほ)の名前は彼女の「日記」や「手紙」にあって親しみを覚えますが、彼は優れたアイヌ文化研究者となりました。彼の「神謡について」はその根本を教えてくれます。 今回は、私がアイヌの人たちの神謡の何をどうして好きなのか、大切に感じるのか...

知里幸惠(三)遺稿「手紙」

 前回の遺稿「日記」に記したように、知里幸惠(ちり ゆきえ)は、『アイヌ神謡集』の原稿が仕上がり印刷所へと送られた年の、大正十一年(1922年)九月十九日、享年十九歳で亡くなりました。亡くなった年の六月から九月の「日記」と「手紙」が遺稿集として出版されています。 遺稿の「手紙」は亡くなった直前まで記されていて、両親への最後の手紙の日付は九月十四日付、亡くなった日の5日前です。彼女がどんなに生きたかったか...

知里幸惠(二)遺稿「日記」

 知里幸惠(ちり ゆきえ)は、『アイヌ神謡集』の原稿が仕上がり印刷所へと送られた年の、大正十一年(1922年)九月十九日、享年十九歳で亡くなりました。(出版は翌年です。) 亡くなった年の六月から九月の「日記」と「手紙」が遺稿として出版されています。公表を考えていなかったそこに記されている言葉、病と闘いながら、アイヌを思い、肉親を思う、心を痛める優しい生の声の切実さに、心を揺さぶられます。 『アイヌ神謡集...

『アイヌ神謡集』序、知里幸惠(一)

 アイヌの神謡、カムイユーカラは、とても美しい心の詩だと私は感じます。口承されてきた神の言葉で謡われている心はとても優しく、慈しみに満ちています。いのちを深く豊かに捉えたアイヌの世界観を私は学びとりたいと思っています。 これから何回かにわたって、アイヌの神謡と、その素晴らしさを伝えてくださったアイヌの方たちについて、私の思いを書き記します。 私が最初に出会えたのは、知里幸惠(ちり ゆきえ)編訳『ア...

Appendix

プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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