知里幸惠の『アイヌ神謡集』を私はとても好きでいろんな思いを書き記してきました。今回はそのまとめとして、まだ書き残していること、伝えたいことを拾い集めます。
まずこの本に彼女が込めた心を少しでも伝えたいので、収められた
13篇の神謡の目次を書き留めます。(
ローマ字はアイヌの言葉の音を幸惠が文字にしたものです)。
AEKIRUSHIKamuichikap kamui yaieyukar, “Shirokanipe ranran pishkan”
Chironnup yaieyukar, “Towa towa to”
Chironnup yaieyukar, “Haikunterke Haikoshitemturi”
Isepo yaieyukar, “Sampaya terke”
Nitatorunpe yaieyukar, “Harit kunna”
Pon Horkeukamui yaieyukar, “Hotenao”
Kamuichikap Kamui yaieyukar, “Konkuwa”
Repun Kamui yaieyukar, “Atuika tomatomaki kuntuteashi hm hm!”
Terkepi yaieyukar, “Tororo hanrok hanrok!”
Pon Okikirmui yaieyukar, “Kutnisa kutunkutun”
Pon Okikirmui yaieyukar, “Tanota hurehure”
Esaman yaieyukar, “Kappa reureu kappa”
Pipa yaieyukar, “Tonupeka ranran”
目次梟の神の自ら歌った謡「銀の滴《しずく》降る降るまわりに」
狐が自ら歌った謡「トワトワト」
狐が自ら歌った謡「ハイクンテレケ ハイコシテムトリ」
兎が自ら歌った謡「サンパヤ テレケ」
谷地の魔神が自ら歌った謡「ハリツ クンナ」
小狼の神が自ら歌った謡「ホテナオ」
梟の神が自ら歌った謡「コンクワ」
海の神が自ら歌った謡「アトイカ トマトマキ クントテアシ フム フム!」
蛙が自らを歌った謡「トーロロ ハンロク ハンロク!」
小オキキリムイが自ら歌った謡「クツニサ クトンクトン」
小オキキリムイが自ら歌った謡「この砂赤い赤い」
獺《かわうそ》が自ら歌った謡「カッパ レウレウ カッパ」
沼貝が自ら歌った謡「トヌペカ ランラン」
このうちの短い作品2篇を別に、「愛(かな)しい詩歌」に咲かせましたので、見つめて頂けたら嬉しく思います。
私がアイヌの神謡をとても好きになり、その森の道を歩き入っていったのは、冒頭の作品
「銀の滴《しずく》降る降るまわりに」からでした。この大好きな作品も全行紹介したいのですが長いので、冒頭部、詩の入り口だけを書き留めます。
Kamuichikap kamui yaieyukar,
“Shirokanipe ranran pishkan”“Shirokanipe ranran pishkan, konkanipe
ranran pishkan.” arian rekpo chiki kane
petesoro sapash aine, ainukotan enkashike
chikush kor shichorpokun inkarash ko
teeta wenkur tane nishpa ne, teeta nishpa
tane wenkur ne kotom shiran.
Atuiteksam ta ainuhekattar akshinotponku
akshinotponai euweshinot korokai.
“Shirokanipe ranran pishkan,
konkanipe ranran pishkan.” arian rekpo
chiki kane hekachiutar enkashike
chikush awa, unchorpoke ehoyuppa
ene hawokai:――
“Pirka chikappo! kamui chikappo!
Keke hetak, akash wa toan chikappo
kamui chikappo tukan wa ankur, hoshkiukkur
sonno rametok shino chipapa ne ruwe tapan”
(略)
梟の神の自ら歌った謡
「銀の滴《しずく》降る降るまわりに」「銀の滴降る降るまわりに
,金の滴降る降るまわりに.」という歌を私は歌いながら
流に沿って下り,人間の村の上を
通りながら下を眺めると
昔の貧乏人が今お金持になっていて,昔のお金持が
今の貧乏人になっている様です.
海辺に人間の子供たちがおもちゃの小弓に
おもちゃの小矢をもってあそんで居ります.
「銀の滴降る降るまわりに
金の滴降る降るまわりに.」という歌を
歌いながら子供等の上を
通りますと,(子供等は)私の下を走りながら
云うことには,
「美しい鳥! 神様の鳥!
さあ,矢を射てあの鳥
神様の鳥を射当てたものは,一ばんさきに取った者は
ほんとうの勇者,ほんとうの強者だぞ.」
(略)
出典:青空文庫 http://www.aozora.gr.jp/(入力:土屋隆、校正:鈴木厚司)
底本:「アイヌ神謡集」(岩波文庫、1978年)
底本の親本:「アイヌ神謡集」(郷土研究社、1923年) 「銀の滴降る降るまわりに,金の滴降る降るまわりに.」という歌を私は歌いながら、というこの調べが、私はずっと好きです。
今回アイヌの神謡についての思いをまとめようとして準備するなかで私は
『現代アイヌ文学作品選』というとても良い本に出会いました。(この本にある他のアイヌの作者の文学作品については別にとりあげ考えたいと考えています。)
川村湊の解説の読み取り方に私は共感します。次のような言葉がありました。
『アイヌ神謡集』の巻頭に置かれた「梟の神の自ら歌った謡」の冒頭は、最初のノートで は「あたりに降るふる銀の水 あたりに降る降る金の水」というリフレーンとなっていた。これが推敲の結果、「銀の滴降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに」と、詩的な表現として磨かれていったのである。
出典:「甦るアイヌ文学の世界」解説、川村湊
(『現代アイヌ文学作品選』川村湊編、講談社文芸文庫、2010年) これは詩の創作そのものです。私も知里幸惠は努力し命を賭け、アイヌの魂を伝えるために、日本語の詩を創作したのだと思っています。彼女の優しい心と柔らかな感性で、どうしても書かずにはいられない痛切な思いをこめて。
最後に、彼女の『アイヌ神謡集』、アイヌの神謡の世界に感動する心から生まれたと感じている
私の2作品をここに掲載して、共鳴させます。
詩「こな雪」 詩「かげろうの湖」 これからも響きあう作品を生み出したいとの願いをこめて。
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