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万葉集巻第二十 防人の歌防人に行くは誰(た)が背と問ふ人を見るが羨(とも)しさ物思ひもせず<今度の防人は誰の旦那さんと尋ねていられる人がただうらやましい>障(さ)へなへぬ命(みこと)にあれば愛(かな)し妹(いも)が手枕(たまくら)離れあやに悲しも<拒めない徴兵、愛する人と引き裂かれ悲しい>万葉集巻第二十 防人(さきもり)等が歌※東国21-60才男を九州北防備に徴兵ふたほがみ悪しけ人なりあたゆまひ我がする時に防人にさす(...
万葉集 巻第十九 大伴家持(オオトモノヤカモチ)うらうらに照れる春日(はるひ)にひばり上がり心悲(かな)しもひとりし思へば(大意)春の眩しいひかり、空高くかけのぼるヒバリの声、ひとりかなしいこころ音調も飛翔するよう。urauraひかりゆらめき。hibariとagariは舞い上がる明るいアaが主音。下の句は転じ内省するオo音が重なるこころ かなしも ひとりし おもへば kokoro kanashimo hitorishi omoebaメランコリー ゆ...
万葉集 巻第十五 狭野弟上娘子 サノノオトカミノオトメ 魂は朝夕にたまふれど我が胸痛し恋の繁きに(訳)たましひはあしたゆふへにたまふれど あがむねいたしこひのしげきに) 意訳、想いは結ばれているけれど、それでも恋しさに胸が痛むのです。万葉集巻第十五 狭野弟上娘我が背子が帰り来まさむ時のため命残さむ忘れたまふな(わがせこ、いのちのこさむ) (意訳)あなたが帰ってくるその時までは命をなんとか残そうとがまんしてい...
万葉集 巻第十四 東歌(あずまうた) 相聞 作者未詳歌武蔵国歌3373多摩川にさらす手作りさらさらになにぞこの子のここだ愛(かな)しきどうしてこんなに好きなんだろう「さ」音「ら」音の光の織物水面流れゆき、「こ」音も優しく「愛し」の二首原文は可奈之、数百年後の平仮名「かなし」です多摩川に tAmAgAwAniさらす SARASuさらさらに SARASARAniなにぞ この子のここだnAnizO KOnOKOnO KOKOdA愛しき KAnNAsiKi音調のと...
万葉集 巻第十四 東歌(あずまうた)相聞 作者未詳歌相模道(さがみじ)のよろぎの浜の真砂(まなご)なす子らは愛(かな)しく思はるるかも相模国歌3372真っ白な砂浜のような、あの子がかなしく想はずにいられない潮騒につつまれ輝く白浜に愛する女性、「な」の波音「るる」の響きがやわらかです。相模 sAgAmi浜の真砂なすhAmAnomAnAgonAsu愛しkAnAsi「まなご」は上代の読み。音調は、明るく解放的な響きの子音の「Aあ」が、波頭のよ...
万葉集 巻第十三 相聞 作者未詳 長歌 3289 初二句略蓮葉(はちすば)に 溜まれる水の ゆくへなみ 我(わ)がする時に 逢ふべしと 逢ひたる君を ない寝そと 母聞こせども 吾(あ)が心 清すみの池の 池の底 吾(あ)れは忘れじ ただに逢ふまでに(訳)蓮の葉の水玉のように、行方にとまどっていた私、どこからか告げられた逢う運命なのだという心の声にお逢いしたあなた、なのに寝てはいけないと母は言うけれど、私の心は...
万葉集 巻第十三 作者未詳 長歌 (冒頭四句略)朝なぎに 満ち来る潮の 夕なぎに 寄せ来る波の その潮の いやますますに その波の いやしくしくに わぎ妹子に 恋ひつつ来れば あごの海の 荒磯の上に 浜菜摘む 海人おとめらが うなげる ひれも照るがに 手に巻ける 玉もゆららに 白たえの 袖振る見えつ 相思ふらしも(大意)海人の少女たちが、首にかけた布も照り輝くばかりに、手に巻いた玉もゆらら鳴るば...
万葉集巻第十三3223 作者未詳 長歌 (後半)みづ枝さす 秋の黄葉(もみぢば) まき持てる 小鈴もゆらに たわや女(め)に われはあれども 引きよぢて 峯もとををに ふさ手(た)折り われは持ちてゆく 君がかざしに(大意)枝いっぱいの秋のモミジを、手に巻いた小さな鈴もゆらと鳴らしてわたしはか弱い女だけれどモミジいっぱいの枝を折りとり持ってゆきます。あなたの髪飾りにしたくて。反歌 3224ひとりのみ見れば恋染(...
万葉集巻第三、山部赤人ヤマベノアカヒト318田子の浦ゆうち出(い)でて見れば真白(ましろ)にぞ富士の高嶺に雪は降りけるうち出でて:視界の開けたところに出てみると「真白」ましろ、という言葉がとても鮮明で美しく、感動が響き。「雪」という語も、万葉の時代から愛され続け。山部赤人の好きな歌もう一首万葉集巻第八1424春の野にすみれ摘みにと来(こ)しわれそ野をなつかしみ一夜(ひとよ)寝にける野を「なつかしみ」という詩句が...
万葉集巻第十二、寄物陳思、作者未詳歌3041朝な朝(さ)な草の上(うへ)白く置く露の消(け)なばともにと言ひし君はも朝ごとに草葉の上に白々と置く露がはかなく消えるように、「消えてしまうなら一緒にね」と、私に言って下さったあの方は、ああ。 (伊藤博訳、角川ソフィア文庫)限られた文字数、音数音律での素朴な表現であるからこそ、純粋さとイメージの豊かさと象徴性と静かな音楽が心に美しく生まれる、和歌らしい和歌。和歌と人...
万葉集巻第十一 正述心緒 2392 柿本人麻呂歌集なかなかに見ずあらましを相見(あひみ)てゆ恋(こひ)しき心まして思ほゆなまじっか逢わなければよかったものを。逢ってからというもの恋しさが増して仕方がない。(伊藤博訳、角川ソフィア文庫)正述心緒は恋心そのままのポエムで好きです。万葉集巻第十一2427、寄物陳思、柿本人麻呂歌集宇治川の瀬々(せぜ)のしき波しくしくに妹(いも)は心に乗りにけるかも宇治川のあちこちの瀬ごとに...
万葉集巻第十2177、山を詠む 作者未詳春は萌(も)え夏は緑に紅(くれない)のまだらに見ゆる秋の山かも(後半意訳)いまは秋、紅に、淡く濃く彩られ、なんてきれいな山なんだろう原文の漢字も、「緑」、「紅」、季節の水彩画のよう。万葉集巻第十2291 作者未詳朝咲き夕は消ぬる月草の消ぬべき恋も我れはするかもあしたさきゆうへはけぬるつきくさのけぬべきこいもあれはするかも※「月草ツキクサ」は、「露草ツユクサ」。上代、「夕」...
万葉集巻第八、秋相聞、額田王ヌカタノオホキミ1606君待つと吾(あ)が恋ひをれば我(わ)が宿の簾(すだれ)動かし秋の風吹く現代訳キミがいまこの部屋に来てくれないかと、切なく恋い焦がれていると、ドアちかくのレースを揺らしてキミが、秋の風が吹く恋の歌、愛の歌は、心に響きます。...
万葉集巻第七1068、柿本人麻呂天(あめ)の海に雲の波立ち月の舟星の林に漕ぎ隠る見ゆ天空の海に白雲の波が立って、月の舟が、星の林の中に、今しも漕ぎ隠れて行く。[伊藤博訳、角川ソフィア文庫]天海丹 雲之波立 月船 星之林丹 榜隠所見[原文 新校注萬葉集 和泉書院]人麿の、壮大でファンタジックな美しい歌。天 海 雲 波 月 船 星 林 象形文字、表意文字として個々の字の形に意味とイメージを宿す漢字ならではの特徴が、夜空に散り...
万葉集巻第五、山上憶良世の中をうしとやさしとおもへども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば(訳)この世の中、こんな所はいやな所、身も細るような所と思う次第でありますが、捨ててどこかへ飛び去るわけにもゆきません。私ども人間は、しょせん鳥ではありませんので。(角川ソフィア文庫、伊藤博)万葉集巻第五、山上憶良すべもなく苦しくあれば出(い)で走り去(い)ななと思へどこらに障(さや)りぬ(訳)なすすべもなく苦しくてたまらな...
万葉集巻第五山上憶良ヤマノウエオクラ904男子(をのこ)名は古日(ふるひ)に恋ふる歌三首(九句目から)(あ)が子古日は 明星(あかぼし)の 明くる朝(あした)は しきたへの 床(とこ)の辺(へ)去らず 立てれども 居(を)れども ともに戯(たはぶ)れ 夕星(ゆふつづ)の 夕(ゆふべ)になれば いざ寝よと 手をたづさわり 父母(ちちはは)も うへはなさかり さきくさの 中(なか)にを寝むと 愛(うつく)しく しが語らへば(略)夕...
万葉集巻第四、安都扉娘子アトノトビラヲトメみ空行く月の光にただ一目相見し人の夢(いめ)にし見ゆる(角川ソフィア文庫、伊藤博訳)天空をわたる月の光の中でたった一目だけ見た人、そのお方の姿が夢の中にはっきり見えました。現か幻か、恋の想いが夢に溶けとても美しい歌万葉集巻第四710みそらゆくつきのひかりにただひとめあひみしひとのいめにしみゆるmisorayuku tukinohikarini tadahitome ahimisihitono imenisimiyuru 母音...
万葉集巻第四、笠女郎カサノイラツメ我(わ)が宿の夕蔭草(ゆふかげくさ)の白露の消(け)ぬがにもとな思ほゆるかもわが家の庭の夕光に照りはえる草に置く白露のように今にもきえいるばかりに、むしょうにあの方のことが思われる(角川ソフィア文庫、伊藤博訳)音とイメージが溶け美しい歌万葉集巻第四、カサノイラツメ伊勢の海の磯もとどろに寄する波畏(かしこ)き人に恋ひわたるかも源実朝は万葉集に学んだのでおそらく、この歌の飛沫を...
万葉集巻第二 挽歌大伯皇女 オホクノヒメミコ見まく欲(ほ)り我がする君もあらなくに何しか来けむ馬疲るるに(訳)逢いたいと願う弟もこの世にいないのにどうして帰ってきたのでしょう。馬が疲れるだけだったのにうつそみの人にある我れや明日(あす)よりは二上(ふたかみ)山を弟背(いろせ)と我れ見む(訳)現世の人である私、明日からは二上山を弟としてずっと見つづけよう磯の上に生ふる馬酔木(あしび)を手折(たお)らめど見すべき...
万葉集、巻第二、相聞。この長歌と反歌はなんど読んでも心に響きます。柿本人麿。【長歌 最終部】夏草の 思ひ萎(しな)えて 偲ふらむ 妹(いも)が門(かど)見む 靡(なび)け この山(訳)強い日差しで萎んでしまう夏草のようにしょんぼりして私を偲んでいるであろう、そのいとしい子の門を見たい。邪魔だ、靡いてしまえ、この山よ。【反歌二首目】笹(ささ)の葉はみやまもさやにさやげども我れは妹(いも)思ふ別れ来(き)ぬれば(訳)笹の...
万葉集巻二、相聞。人を強く思う歌ほど心に響くものはないと教えられ。永遠の別れ大伯皇女 オホクノヒメミコふたりゆけどゆき過ぎかたき秋山をいかにか君がひとり越ゆらむ(訳)二人で歩を運んでも寂しく行き過ぎにくい暗い秋山なのに、その山を、今頃君はどのようにしてただ一人で越えていることでしょう。愛の返歌石川郎女 イシカハノイラツメ我(あ)を待つと君が濡れけむあしひきの山のしづくにならましものを(訳)私をお待ち下...
図書館で、万葉集の花の本を見つけて数冊借りました。うた、ことばと、写真と絵がささやきあう、野の花のような。和歌の花は桜になりすぎましたが、桜は私も好きですが、いろんな花の名と表情はみんなちがってきれいで、話をしたくなります。万葉の花のいろんな本をずっと読んでいますが、河原で、秋の七草の、葛(くず)の花を見つけました。うれしく思います。すこし紫がかったピンクが空へ、夕焼けに染め上げられる空へのぴ、きれ...
万葉集の東歌のうたのなかで防人歌(さきものりうた)は、すべてが作者未詳歌ではありませんが、ほとんど無名の個人の思いの歌、切実な思いの悲しい歌です。 巻第十四の東歌のなかにその一部があり、大部分は巻第二十に集められています。「愛(かな)しい詩歌」に巻第二十の好きな防人歌を咲かせました。 防人歌は、中央国家に徴兵され九州に派兵された東国の人々の歌です。 二度と会うことができないかもしれない、死に別れとな...
「万葉集 巻第二十の防人歌(さきもりのうた)」より好きな歌を十二首選びました。*出典『新版 万葉集四 現代語訳付き』』(訳注:伊藤博、角川ソフィア文庫)、*国歌大観番号を付します。*出典の原文を記し、続けて( )内にひらがなで記します。*防人歌は方言訛りの読みが独特なため[ ]内に訳も記します。 訳者の本意を損なわない範囲で訳文は変えた箇所があります。 防人歌に感じ思うことは、「詩に想う」で別に記します。...
「万葉集 巻第十四の東歌(あづまうた)」より好きな歌を四首選びました。*出典『新版 万葉集三 現代語訳付き』』(訳注:伊藤博、角川ソフィア文庫)、*国歌大観番号を付します。*出典の原文を記し、続けて( )内にひらがなで記します。東歌(あづまうた)三三七二 相模道の余綾の浜の真砂なす子らは愛しく思はるるかも(さがむぢのよろぎのはまのまなごなすこらはかなしくおもはるるかも)三三七三 多摩川にさらす手作りさらさ...
万葉集の作者未詳の歌のなかで、私が好きな東歌(あづまうた)について記します。巻第十四のこれらの歌は、東の国々の地名が多く詠まれていて、当時の方言・訛りも多く、独特のしらべに揺れ動きます。 性愛のストレートな表現も特徴ですが、それは逆にこれらの歌が、民謡に近いもの、歌垣などでの女と男の言葉のかけあいから生まれたもの、あの時代にいた人たちの共有の謡いもの、歌謡曲だったからだと言われていて、私もそのよう...
「万葉集 巻十一、巻十二 正述心緒 相聞歌」より好きな歌を二十首選びました。*出典『万葉集歌人集成』(著者:中西進、辰巳正明、日吉盛幸、講談社)。*国歌大観番号を付します。*出典の原文を記し、続けて( )内にひらがなで記します。巻十一 二三八一 君が目を見まく欲りしてこの二夜千歳の如く吾は恋ふるかも(きみがめをみまくほりしてこのふたよちとせのごとくわはこふるかも)二三八二 うち日さす宮路を人は満ち行...
万葉集の作者未詳の歌たち、名を残さなかった人たちの、私が好きなもうひとつの詩歌、正述心緒の相聞歌についての思いを記します。 万葉集巻十一・巻十二には、作者未詳の「ただに思いを述べたる(正述心緒)」が編み込まれていて、その多くが相聞歌です。 ただに思いを述べたる、この言葉そのままの、生きている思いの揺れ動きをそのまま言葉に込めたはだかの歌です。感情の体温、なまの暖かさ、熱さ、凍える寒さをもつ、感動...
「万葉集 巻十三 長歌 反歌」 (国歌大観番号:長歌・三二四三、反歌・三二四四)。 出典『万葉集歌人集成』(著者:中西進、辰巳正明、日吉盛幸、講談社)。*出典の原文を記し、続けて( )内にひらがなで記します。 少女等が 麻笥に垂れたる 績麻なす 長門の浦に 朝なぎに 満ち来る潮の 夕なぎに 寄せ来る波の その潮の いやますますに その波の いやしくしくに 吾妹子に 恋ひつつ来れば 阿胡の海の ...
私は詩歌が好きです。詩歌という豊かなひろがりのある言葉が好きです。日本語での詩のしらべを思うとき、美しい響きの源流近くに、万葉集がささめいています。 心が疲れ干し上がって、音をききとる力が弱まり、言葉が歌を見失ってしまったとき、私は二つのことで詩歌を思い起こそうとします。ひとつは、自分自身の作品を読み返すことです。詩作の際には繰り返し読み返すことで作品全体を暗誦できるようになりますが、次第に記...