万葉集巻第十一 正述心緒 2392 柿本人麻呂歌集
なかなかに見ずあらましを相見(あひみ)てゆ恋(こひ)しき心まして思ほゆなまじっか逢わなければよかったものを。逢ってからというもの恋しさが増して仕方がない。
(伊藤博訳、角川ソフィア文庫)
正述心緒は恋心そのままのポエムで好きです。
万葉集巻第十一2427、寄物陳思、柿本人麻呂歌集
宇治川の瀬々(せぜ)のしき波しくしくに妹(いも)は心に乗りにけるかも宇治川のあちこちの瀬ごとに立ちしきる波、この波のように、あの子はひっきりなしに私の心に乗りかかってきて消え去ることがない。
(伊藤博訳、角川ソフィア文庫)
寄物陳思キブツチンシ、物に寄せて思いをのべる歌。
月や山や川や花や風、自然にふれたある瞬間に、心も揺り動かされ、感動が降り注ぎ、芽生え、蘇り、ふるえだし、ひとりくちばしり、語りかけてしまう、心のありかたはとても人間らしいと私は思います。
生きていると感じ伝えたいと切実に願うこと。
宇治川の歌は、「しくしく」など、音が水のように流れて親しみを感じきれいです。
川をみつめて生まれた恋の思いが流れている数百年さきの川辺にはは紫式部が、源氏物語の宇治十帖の浮舟がいます。
その千年さきの川辺に今私たちがいて、水の流れ、せせらぎ、光、詩と物語、文学に心洗われています。
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