Entries

『アイヌ神謡集』2作品。知里幸惠

 知里幸惠編訳『アイヌ神謡集』についての思いを記し てきました。
 彼女の魂を込めた神謡から短い作品2篇を、ここ「愛(かな)しい詩歌」に咲かせます。
 2篇とも、幸惠がローマ字表記を学びつつ神謡の言葉の音を文字に したものを先に、続けてその神謡の心を日本語の表現として創作した作品を掲載しています。

Terkepi yaieyukar, “Tororo hanrok hanrok!”
蛙が自らを歌った謡「トーロロ ハンロク ハンロク!」

 これはアイヌ神謡の特徴である折返(リフレイン)がわかりやすい、小さないのちへの親愛が心がはねているような、かえるの神が歌うとても愛らしい作品です。

Pipa yaieyukar, “Tonupeka ranran”
沼貝が自ら歌った謡「トヌペカ ランラン」

 こちらは記載は省略されていますが「トヌペカ ランラン」という響きの良いリフレインを繰り返しながら、アイヌの人たちが良いとしたいのちへの慈しみと心の優しさを教えてくれる作品です。

 どちらも小品ですが、私は美しく良い詩だと感じます。
アイヌ神謡を好きになっていただけたら、嬉しく思います。

Terkepi yaieyukar,
“Tororo hanrok hanrok!”


Tororo hanrok, hanrok!
Shineantota muntum peka terketerkeash
shinotashkor okayash aine ingarash awa,
shine chise an wakusu apapaketa payeash wa
inkarash awa, chiseupshotta ikittukari
chituyeamset chishireanu. Amset kata
shine okkaipo shirkanuye kokipshirechiu
okai chiki chirara kusu tonchikamani kata
rokash kane.“Tororo hanrok, hanrok!” ari
rekash awa, nea okkaipo tam tarara
unnukar awa, sancha otta mina kane,
“Eyukari ne ruwe? esakehawe ne ruwe?
na henta chinu.” itak wakushu
chienupetne,“Tororo hanrok, hanrok!” ari
rekash awa nea okkaipo ene itaki:――
“Eyukari ne ruwe? esakehawe ne ruwe?
na hankenota chinu okai.”
hawashchiki chienupetne, outurun
inumpe kata terkeashtek,
“Tororo hanrok, hanrok!” rekash awa
nea okkaipo shui ene itaki:――
“Eyukari ne ruwe? esakehawe ne ruwe?
na hankenota chinu okai.” hawash chiki,
shino chienupetne, roruninumpe
shikkeweta terkeashtek,
“Tororo hanrok, hanrok!” rekash awa
arekushkonna nea okkaipo matke humi
shiukosanu, hontomota shi apekesh
teksaikari unkaun eyapkir humi
chiemonetok mukkosanu, pateknetek
nekona neya chieramishkare.
Hunakpaketa yaishikarunash inkarash awa,
mintarkeshta shine piseneterkepi
rai kane an ko ashurpeututta okayash kanan.
pirkano inkarash awa, useainu unchisehe
ne kuni chiramuap Okikirmui kamui rametok
unchisehe neawokai ko
Okikirmui nei ka chierampeutekno
iraraash ruwe neawan.
Chiokai anak tane tankorachi toi rai wen rai
chikishiri tapan na, tewano okai
terkepiutar itekki ainuutar otta irara yan.
ari piseneterkepi hawean kor raiwa isam.

蛙が自らを歌った謡
「トーロロ ハンロク ハンロク!」


トーロロ ハンロク ハンロク!
「ある日に,草原を飛び廻って
遊んでいるうちに見ると,
一軒の家があるので戸口へ行って
見ると,家の内に宝の積んである側に
高床がある.その高床の上に
一人の若者が鞘を刻んでうつむいて
いたので,私は悪戯をしかけようと思って敷居の上に
坐って,「トーロロ ハンロク ハンロク!」と
鳴いた,ところが,彼の若者は刀持つ手を上げ
私を見ると,ニッコリ笑って,
「それはお前の謡かえ? お前の喜びの歌かえ?
もっと聞きたいね.」というので
私はよろこんで「トーロロ ハンロク ハンロク!」と
鳴くと,彼の若者のいう事には,
「それはお前のユーカラかえ? サケハウかえ?
もっと近くで聞きたいね.」
私はそれをきいて嬉しく思い下座の方の
炉縁の上へピョンと飛んで
「トーロロ ハンロク ハンロク!」と鳴くと
彼の若者のいうことには,
「それはお前のユーカラかえ? サケハウかえ?
もっと近くで聞きたいね.」それを聞くと私は,
本当に嬉しくなって,上座の方の炉縁の
隅のところへピョンと飛んで
「トーロロ ハンロク ハンロク!」と鳴いたら
突然!彼の若者がパッと起ち
上ったかと思うと,大きな薪の燃えさしを
取り上げて私の上へ投げつけた音は
体の前がふさがったように思われて,それっきり
どうなったかわからなくなってしまった.
ふと気がついて見たら
芥捨《あくすて》場の末に,一つの腹のふくれた蛙が
死んでいて,その耳と耳との間に私はすわっていた.
よく見ると,ただの人間の家
だと思ったのは,オキキリムイ,神の様に
強い方の家なのであった,そして
オキキリムイだという事も知らずに
私が悪戯をしたのであった.
私はもう今この様につまらない死方,悪い死方
をするのだから,これからの
蛙たちよ,決して,人間たちに悪戯をするのではないよ.
  と,ふくれた蛙が云いながら死んでしまった.


Pipa yaieyukar,“Tonupeka ranran”

Tonupeka ranran
Satshikush an wa ottaokayashi ka
sat wa okere, tane anakne raiash kushki.
“Nenkatausa wakka unkure
untemka okai! Wakkapo!” ohai chiraikotenke,
okayash awa, too hosashi shine menoko
saranip se kane arki kor okai.
Chishash kor okayash awa unsama kush
unnukar awa,
“Toi pipa wen pipa, neptap chishkar hawe
iramshitnere okaipe neya?” itak kane
unotetterke unureetursere unseikoyaku,
toop ekimun paye wa isam.
“Ayapo, oyoyo! Wakkapo!” ohai chiraikotenke
okayash awa, too hosashi shui shine menoko
saranip se kane arki kor okai.
“Nenkatausa wakka unkure untemka okai!
Ayapo, oyoyo! Wakkapo!” ohai chiraikotenke,
okayash awa pon menoko kamui shirine
unsamta arki unnukat chiki,
“Inunukashki shirsesek wa pipautar
sotkihi ka satwa okere, wakkaewen hawe
neshun okaine, nekonanep okai ruwe tan,
aotetterke apkor okai.” itak kane
unopitta unumomare, korham oro
unomare, pirka to oro unomare.
Pirka namwakka chieyaitemka,
shino tumashnuash. Otta eashir
nea menokutar shinrichihi chihunara
inkarash awa, hoshkino ek unureeyaku
shirun menoko wen menoko anak Samayunkur
kottureshi newa, unerampokiwen
unshiknure pon menoko kamui moiremat anak
Okikirmui kottureshi ne awan.
Samayunkur kottureshi chiepokpa kushu
kor amamtoi chishumka wa, Okikirmui
kottureshi kor amamtoi chipirkare.
Ne paha ta Okikirmui kottureshi shino harukar.
chirenkaine ene shirkii eraman wa,
pipakap ari amampush tuye.
Orowano keshpaanko ainu menokutar
amampush tuye ko pipakap eiwanke ruwe ne.
ari shine pipa yaieyukar.  

沼貝が自ら歌った謡
「トヌペカ ランラン」


トヌペカ ランラン
強烈な日光に私の居る所も
乾いてしまって今にも私は死にそうです.
「誰か,水を飲ませて下すって
助けて下さればいい.水よ水よ」と私たちが泣き叫んで
いますと,ずーっと浜の方から一人の女が
籠を背負って来ています.
私たちは泣いていますと,私たちの傍を通り
私たちを見ると,
「おかしな沼貝,悪い沼貝,何を泣いて
うるさい事さわいでいるのだろう.」と言って
私たちを踏みつけ,足先にかけ飛ばし,貝殻と共につぶして
ずーっと山へ行ってしまいました.
「おお痛,苦しい,水よ水よ.」と泣き叫んで
いると,ずっと浜の方からまた一人の女が
籠を背負って来ています.私たちは
「誰か私たちに水を飲ませて助けて下さるといい,
おお痛,おお苦しい,水よ水よ.」と叫び泣きました
すると,娘さんは,神の様な美しい気高い様子で
私の側へ来て私たちを見ると,
「まあかわいそうに,大へん暑くて沼貝たちの
寝床も乾いてしまって水を欲しがって
いるのだね,どうしたのでしょう
何だか踏みつけられでもした様だが……」と言いつつ
私たちみんなを拾い集めて蕗の葉に
入れて,きれいな湖に入れてくれました.
清い冷水でスッカリ元気を恢復し
大へん丈夫になりました.そこで始めて
かの女たちの気性を探って
見ると,先に来て,私を踏みつぶした
にくらしい女,わるい女はサマユンクルの
妹で,私たちを憫み
助けて下さった若い娘さん淑《しと》やかな方
は,オキキリムイの妹なのでありました.
サマユンクルの妹は悪《にく》らしいので
その粟畑を枯らしてしまい,オキキリムイの
妹のその粟畑をばよく実らせました.
その年に,オキキリムイの妹は大そう多く収穫をしました.
私の故為《せい》でそうなった事を知って
沼貝の殻で粟の穂を摘みました.
それから,毎年,人間の女たちは
栗の穂を摘む時は沼貝の殻を使う様になったのです.
  と,一つの沼貝が物語りました.

出典:青空文庫 http://www.aozora.gr.jp/(入力:土屋隆、校正:鈴木厚 司)
底本:「アイヌ神謡集」(岩波文庫、1978年)
底本の親本:「アイヌ神謡集」(郷土研究社、1923年)
関連記事
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
https://blog.ainoutanoehon.jp/tb.php/110-3bc96acd

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

最新記事