アイヌとしての誇りと魂を歌いあげた三名の方の作品を、
『現代アイヌ文学作品選』から摘み、ここ「愛(かな)しい詩歌に咲かせています。私が良いと感じるままに選びました。
二回目は、若くして病のうちに亡くなった、
違星北斗(いぼしほくと、1902年~1929年)の作品です。
彼の短歌についての思いは「私の短歌」に書かれたとおり、念願が迸り出た歌です。だからこそ、悲しみの歌も痛く響いてきます。優しい魂の持ち主だっったことが、言葉の底から伝わってくる彼の歌が、私は好きです。
私の短歌「(略)公平無私とかありのままとかを常に主張する自分だのに、歌に現われた所は全くアイヌの宣伝と弁明に他ならない。それには幾多の情実もあるが、結局現代社会の欠陥が然らしめるのだ。そして住み心地よい北海道、争闘のない世界たらしめたい念願が迸り出るからである。(略)」
アイヌとして生きて死にたい願もてアイヌ絵を描く淋しい心
灰色の空にかくれた北斗星北は何れと人は迷はん
勇敢を好み悲哀を愛してたアイヌよアイヌ今何処に居る
ネクタイを結ぶと覗くその顔を鏡はやはりアイヌと云へり
コタンからコタンを巡るも楽しけれ 絵の旅 詩の旅 伝説の旅
暦なくとも鰊(にしん)来るのを春としたコタンの昔慕はしきかな
久々で熊がとれたが其の肉を何年ぶりで食うたうまさよ
桂木の葉のない梢天を衝き日高の山に冬は迫れる
よっぽどの馬鹿でもなけりゃ歌なんか詠まない様な心持不図する
人間の仲間をやめてあの様にゴメと一緒に飛んで行きたや
*ゴメ、かもめ。ゴメゴメと声高らかに歌ふ子も歌はるるゴメも共に可愛や
芸術の誇りも持たず宗教の厳粛もないアイヌの見せ物
滅亡に瀕するアイヌ民族にせめては生きよ俺の此の歌
悪辣で栄えるよりは正直で亡びるアイヌ勝利者なるか
ホロベツの浜のハマナシ咲き匂ひイサンの山の遠くかすめる
病よし悲しみ苦しみそれもよしいっそ死んだがよしとも思ふ
若しも今病気で死んで了ったら私はいいが父に気の毒
出典:
『現代アイヌ文学作品選』(川村湊編、2010年、講談社文芸文庫)(出典の底本:
違星北斗『コタン 違星北斗遺稿』(1931年、竹柏会)
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