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ポーの詩「アナベル・リー」

 ブログ「詩を想う」の「恋と物のあはれ」で、恋の歌について記しました。
 その際、本居宣長の叙述と共鳴している萩原朔太郎の『詩の原理』を再び取り上げました。その著書にある朔太郎の言葉、「詩の中での純詩と言うべきものは、ポオの名言したる如く抒情詩の外にない。」「実に抒情詩というべきものは恋愛詩の外になし。」が私は好きです。ポーの詩論もいつか取り上げるつもりです。

 この「愛(かな)しい詩歌」は時代も大陸も言語も越えて私が好きな詩を咲かせる野原ですので、とても有名ですが英語詩のなかで私がいちばん好きなポーの抒情詩「アナベル・リー」を先に咲かせます。
 ポーの最期の詩と言われていますが、そのことを知らずに初めて読んだ時から、私はとても好きになりました。彼が書き残したすべての言葉のなかで、透きとおる愛(かな)しみの音楽が響いてゆく、この愛の詩が今もいちばん好きです。
出典:『対訳 ポー詩集 ―アメリカ詩人選1』(エドガー・アラン・ポー、訳:加島祥造、岩波文庫、1997年)。


Annabel Lee

It was many and many a year ago,
In a kingdom by the sea,
That a maiden there lived whom you may know
By the name of Annabel Lee;―
And this maiden she lived with no other thought
Than to love and be loved by me.

She was a child and I was a child,
In this kingdom by the sea,
But we loved with a love that was more than love―
I and my Annabel Lee―
With a love that the winged seraphs of Heaven
Coveted her and me.

And this was the reason that,long ago,
In this kingdom by the sea,
A wind blew out of a cloud by night
Chilling my Annabel Lee;
So that her highborn kinsmen came
And bore her away from me,
To shut her up, in a sepulchre
In this kingdom by the sea.

The angels, not half so happy in Heaven,
Went envying her and me:―
Yes! that was the reason (as all men know,
In this kingdom by the sea)
That the wind came out of the cloud,chilling
And killing my Annabel Lee.

But our love it was stronger by far than the love
Of those who were older than we―
Of many far wiser than we―
And neither the angels in Heaven above
Nor the demons down under the sea
Can ever dissever my soul from the soul
Of the beautiful Annabel Lee:―

For the moon never beams without bringing me dreams
Of the beatiful Annabel Lee;
And the stars never rise but I see the bright eyes
Of the beatiful Annabel Lee;
And so,all the night-tide,I lie down by the side
Of my darling,my darling,my life and my bride
In her sepulchre there by the sea―
In her tomb by the side of the sea.


アナベル・リー

幾年(いくとし)も幾年も前のこと
 海の浜辺の王国に
乙女がひとり暮していた、そしてそのひとの名は
 アナベル・リー ―
そしてこの乙女、その思いはほかになくて
 ただひたすら、ぼくを愛し、ぼくに愛されることだった。

この海辺の王国で、ぼくと彼女は
 子供のように、子供のままに生きていた
愛することも、ただの愛ではなかった―
 愛を超えて愛しあった―ぼくとアナベル・リーの
その愛は、しまいに天国にいる天使たちに
羨(うらや)まれ、憎まれてしまったのだった。

そしてこれが理由となって、ある夜
 遠いむかし、その海辺の王国に
寒い夜風が吹きつのり
 ぼくのアナベル・リーを凍えさせた。
そして高い生まれの彼女の親戚たちが
 とつぜん現れて彼女を、ぼくから引き裂き連れ去った
そして閉じ込めてしまった
 海辺の王国の大きな墓所に。

天使たちは天国にいてさえぼくたちほど幸せでなかったから
 彼女とぼくとを羨んだのだ―
そうだとも! それこそが理由だ
 それはこの海辺の国の人みんなの知ること
ある夜、雲から風が吹きおりて
 凍えさせ、殺してしまった、ぼくのアナベル・リーを。

しかしぼくらの愛、それはとても強いのだ
 ぼくらより年上の人たちの愛よりも
 ぼくらより賢い人たちの愛よりも強いのだ―
だから天上の天使たちだろうと
 海の底の悪魔たちだろうと
裂くことはできない、ぼくの魂とあの美しい
 アナベル・リーの魂を―

なぜなら、月の光の差すごとにぼくは
 美しいアナベル・リーを夢みるからだ
星々のあがるごとに美しいアナベル・リーの
 輝く瞳を見るからだ―
だから夜ごとぼくは愛するアナベル・リーの傍(そば)に横たわるのだ
おお、いとしいひと―わが命で花嫁であるひとの
 海の岸辺の王国の墓所に―
 ひびきをたてて波寄せくる彼女の墓所に。

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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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