ここ百年ほどの時間に歌われた詩歌から、短歌の形で咲いた心の花をみつめています。
今回の歌人は
大野誠夫(おおの・のぶお、1914年・大正3年、茨城県生まれ、1984年・昭和59年没)です。
彼の歌も私は初めて知りましたが、哀しみ、哀感が響く
抒情歌が心に響いてきて好きになりました。10首を選びました。
一、二、四首目は、夜、雪、裸木、星座、女性、音楽と、世界中のロマン派、抒情詩人が好む情景が歌われ、抒情歌そのもので、私はいいなと感じます。
三、五首目には敗戦後の世相が焼きつけられています。白きマフラーは生き残った特攻隊員、丈高き群れは進駐軍、媚びる戦敗国民、ともに深い苦味が滲んでいるような歌です。
六、七、八首目の歌から、この歌人が心やさしい文学者だったことが、とてもよく伝わってきます。
最後の2首は、過ぎ去った愛の時間、愛しあった人を情愛深く想う追憶の歌です。愛を失われても尊いものとして追わずにいられない資質の、天性の、根っからの抒情歌人だと感じます。
出典にある一枚の彼の写真の風貌は、私にはなんとなく作家の
太宰治と似ていると感じられるのは、同じ時代を生きていたことと、語り口や心のかたちに似通うものを感じるからです。
歌は本来抒情的なものですが、殺戮と殺伐の散文の時代に生きた抒情歌人と出会えて、私は嬉しく思います。
『薔薇祭』1951年・昭和26年降誕祭ちかしとおもふ青の夜曇りしめらひ雪ふりいづる
裸木とひかりあをめる星の座のあるに任せて今は眠らむ
兵たりしものさまよへる風の市白きマフラーを巻きゐたり哀し
ゆるやかに踊る女体は匂ふらむワルツの洩るる窓に雪ふる
丈高き群の会話に日本語ありひそかに媚びるこゑまじりつつ
『水観』1986年・昭和61年夜の室の大蜘蛛草に移したりいつよりか殺生を好まずなりぬ
寂しかるわれをいかばかり慰めし銀幕の星の虚像を愛す
人前に見せぬ泪を劇場の薄闇にゐてとどめんとせず
引き寄せて椿の蔭に奪ひしが唇はいまもひとを忘れず
たのしかり思ひのみいまも残りゐて窓白むまで何語りしや
出典:『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)。 次回も、歌人の心の歌の愛(かな)しい響きに耳を澄ませます。
☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年
3月11日、
イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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