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俵万智。口語心に響き。歌の花(四六)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

● 俵万智(たわら・まち、1962年・昭和37年大阪生まれ)。

寄せ返す波のしぐさの優しさにいつ言われてもいいさようなら  『サラダ記念日』1987年・昭和62年

◎彼女の歌は、日常の言葉そのままの、力まない柔らかな口語であること、会話と同じように意味を伝えることを大切にしていること、これらが優れている歌ですので、共感、いいなという想いが多くの読者の心に自然に生まれるのだと感じます。
 言葉の調べも美しく、「しぐさSIguSA」「優しさyaSASISA」「さようならSAyounara」の、子音S の「さSA」音と「しSI」音の響きあいと、「いつ」Itu「言われてもIwaretemo」「いいII」の「イI」音の重なる押韻がとても自然に響いてきます。

落ちてきた雨を見上げてそのままの形でふいに、唇が欲し

◎イメージが自然に眼に浮かんできます。「ふいに、唇が欲しHOSI」は、「欲しい」の「い」を切り落としていることで、無音の感情の余韻が響きます。
 恋の歌であることも、幅広い年代の読者に好まれるいちばんの理由だと思います。詩歌、短歌がいちばん魅力的な輝く爽やかな表情をみせてくれるのは、恋の歌だからです。

「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ

◎とても自然に共感する恋の歌です。「寒いね」という言葉の交わしあいが聞こえてくるようです。最後の「あたたかさAtAtAkAsA」はひらがなで一字ずつひろう5文字の母音がすべて明るい音色の「アA」音で、5回重ねて奏でられ、ぬくもりを増しています。

今日まで私がついた嘘なんてどうでもいいよというような海

◎日常での日常語で浮かぶ思いそのままの詩句「どうでもいいよというような」が、短く一語で対比される「海」を大きく印象深く心に浮かびあがらせます。

潮風に君のにおいがふいに舞う 抱き寄せられて貝殻になる  ◆

◎「君」という一語が、青春期の男女の恋の情景を香らせます。ジャン・コクトーの詩の堀口大学訳との木魂が、作者の意識にあったのではないかと思います。どちらもいいなと、感じます。
   私の耳は 貝の殻 
   海の響を懐かしむ    

なんでもない会話なんでもない笑顔なんでもないからふるさとが好き

◎「なんでもない」を三回くりかえし強調してから、反語となって最後に置かれた言葉「好き」が心に残ります。詩の作者として私も、作品のなかに「好き」と響かせるのが好きですので、共感します。

散るという飛翔のかたち花びらはふと微笑んで枝を離れる  『風のてのひら』1991年・平成3年

◎映像的な魅力と、調べの流れの変化が美しいと感じます。「散るCHIru」「飛翔hIshou」の母音イI音の頭韻、「かたちkataCHI」の「ち」との響き合い、中間部「かたち花びらはkAtAchi hAnAbirAwA」は母音アA音を重ね、後半部「ふと微笑んで枝を離れるfutOhOhOEndE EdaOhanarEru」は、この歌の感動の中心ですが、母音オO音とエE音が耳に快く微笑んでいるようです。

やわらかな秋の陽ざしに奏でられ川は流れてゆくオルゴール

◎この歌もイメージと言葉の音楽が溶け合い流れています。「やわらかな秋の陽ざしに奏でられ川は流yAwArAKAnA AkinohizAsini KAnAderAre KAwAwA nAgA」このまでは母音アA音が主調で、特に「かKA」音が輝きます。転調し、「れてゆくオルゴールrEtEyUkUOrUgOOrU」母音エE音、ウU音、オO音に流れのきらめきの表情を変化させています。

眠りつつ髪をまさぐる指やさし夢の中でも私を抱くの  ◆『チョコレート革命』1997年・平成9年
水蜜桃(すいみつ)の汁吸うごとく愛されて前世も我は女と思う  ◆
焼き肉とグラタンが好きという少女よ私はあなたのお父さんが好き  ◆

◎これら三首は、少女の恋の時代は過ぎて、男女の性と生活の意識も深まり織り混ぜられた、愛の歌です。
 それでも三首目で「好き」という言葉を選ぶところに、怒り、悩み、苦しみといった心の他の表情は少しも見せずに、明るく優しく温まる微笑のような恋の歌、愛の歌を咲かせる、この歌人の個性、人柄、創作意識があるのだと私は思います。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)から。

次回も、美しい歌の花をみつめます。
 ☆ お知らせ ☆
 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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