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塘健。今野寿美。歌の花(三九)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

■ 塘健(つつみ・けん、1951年・昭和26年長野県生まれ)。

青空へひとすぢ奔り去る水のそのかなしみを歌といふべし  『火冠』1983年・昭和58年
水田(すいでん)に薄氷(うすらひ)結ぶその朝(あした)夢のごとくに立てり白鷺
真夜にして胸つき上ぐるもののあり永久(とは)に雪ふる星こそ故郷

◎とても澄みとおるイメージを美しく映し出す歌人です。
 一首目は、歌そのものを感じる、とても美しい歌で好きです。青空へ、ほとばしり消え去る一瞬の水、美しいイメージです。その水の「かなしみ」が歌、共感を覚えます。調べは引き締まる母音イI音を主調音に「ひとすぢHIToSuJI」「奔り去る水HoToBaSIrISarumIZu」「かなしみKanaSImI」「いふべしIuBeSI」、子音もH、T、S、J、B、Z、Kの細く強く息を吐く息が連なり織りなされ、意思を響かせています。
 二首目は、水田にうすく氷の張った寒い朝、たたずむ白鷺の姿を歌う叙景が、「夢のごとくに」という歌人の抒情のまなざしで、心象風景、夢の世界にまで、氷の透明なひかりと白鷺の白をきらめかせながら、美しく沁みひろがっています。
 三首目は、永遠に思いを馳せ、歌を響かせる美しい歌。産み育ててくれた故郷であるこの地球には、永遠に雪、星の光がふりそそぎ続けている、イメージが宇宙の彼方、時間の彼方まで一気に拡がります。
最後の詩句「故郷」に送り仮名をふっていませんので、作者の意図がどうであれ、読者は二通りの読み方を選んでかまいません。「星こそこきょうhOsiKOSO KOKYO」と読むと、母音オO音の連なりと、「こKO」の音の呼応で強い調べになります。「雪ふる星こそふるさと」と読むと「ふるFURU」の繰り返しと音色が優しい調べを生みます。読者の好み、自由に読み作品を自分のものにしてよいと私は思います。どちらかに固執したいなら作者は自らに厳しく送り仮名をつけてから完成とし公開すべきだと思います。

● 今野寿美(こんの・すみ、1952年・昭和27年東京生まれ)。音楽的。

その五月われはみどりの陽の中に母よりこぼれ落ちたるいのち  『花絆』1981年・昭和56年
きみが手の触れしばかりにほどけたる髪のみならずかの夜よりは

◎この歌人は言葉の音楽に鋭敏、調べで詩句を紡いでいますので、耳を澄ませます。
これら二首は、母音オO音が主調音で、落ち着いた穏やかさが調べにあります。
一首目はさらに「のNO」音となってリズムを生み出しています。
「sONOgOgatu warewamidOriNO hiNOnakanI hahayOrikObOre OchitaruiNOchI」。「中にnakanI」と「inochI」は遠くかすかに脚韻しています。
 二首目は、特に次の詩句「髪のみならず かの夜よりは KAMINOMInarazu KANOYOruYOriwa」は、「かKA」、「みMI」、「のNO」、「よYO」が繰り返し顔をのぞかせ歌っているようです。

どうしてもつかめなかつたか風中の白き羽毛のやうなひとこと

◎この歌もイメージはおぼろですが、音を紡いでいます。「どうしてもmO」、「風中nO」「ひとことhiTOkOTO」は脚韻しています。「ひとこと」は母音オO音と「とTO」音の重なるリズムの快さを感じています。
詩句「どうしてもdOUsiteMO」と「羽毛のやうなUMOUNOyOUNa」も、母音はウU音とオO音、子音はM音とN音、ともに穏やかな音の言葉を、心が聴き取り選んでいるようです。

あの夏の言葉よりなほ無防備にさらす咽喉(のみど)にいま触れてみよ  『世紀末の桃』1991年・昭和63年

◎この歌で「咽喉」をあえて「のみど」と読ませているのは、音数を整えつつ、「のみどnOMIdO」と最後の詩句「MIyO」の母音オO音の響きあいに「みMI」音が加わり印象が強まり快いからです。

みどりごはふと生(あ)れ出(い)でてあるときは置きどころなきゆゑ抱きゐたり

◎この歌の調べは、「生(あ)れ出(い)でて」と敢えて読ませ、「生れ出でてAreIdete」、「あるAru」、「なきnAKI」、「抱きdAKI」、「ゐItArI」と、母音アA音とイI音の連なるこだまを響かせています。

その父に餓鬼と呼ばるる子は笑ふからだまるごと大いに笑ふ

◎この歌では、母音ウU音の響きが、「呼ばるるyobaRURU」、「だまるdamaRU」、そして繰り返され脚韻している「笑ふwaraU」で調べの主調音です。「るRU」の音は詩想の子の笑いの明るさを奏で弾むようです。文語の「笑ふ」の読みの音は「WARAU」ですが、文字の「ふ」を読むとき、「ふFU」の音が心には一瞬流れます。文語にしかない不思議な魅力だと私は思います。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

 次回も、美しい歌の花をみつめます。

 ☆ お知らせ ☆
 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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