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栗木京子。抒情の水惑星(みづわくせい)。歌の花(四一)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

● 栗木京子(くりき・きょうこ、1954年・昭和29年名古屋市生まれ)。

夜道ゆく君と手と手が触れ合ふたび我は清くも醜くもなる  『水惑星』1987年・昭和59年

◎女性の心模様、性意識の清らかな揺れ動きを感じる歌です。「醜くも」と感じるのは初々しいプラトニックな眼差しだからです。泥にまみれていては泥を醜く感じません。
 「触れ合うたび」と6音として1音字足らずにしていることで、手が触れた瞬間の息が止まる、ためらいの間(ま)が生まれています。「君と手と手がKIMITO TETOTEGA」の律動や、「清くも醜くもKIYOKUMO MINIKUKUMO」の母音オO音ウ音と子音KとMの織りなす調べも美しいと感じます。

観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日(ひとひ)我には一生(ひとよ)

◎女性の恋愛感情が美しく歌い上げられた歌。「回れよ回れMAWAREyoMAWARE」の同音の繰り返しと、漢字の「回」の形そのものが、回る観覧車の大きな姿を想い起こさせます。「観覧車」は詩句そのいものが初恋やデートのイメージと結びついています。「君には一日我には一生」という大きな繰り返しによる変奏も歌に調べの波を生んでいます。「ひとひHITOHI」「ひとよHITOYO」の変奏と意味の対比も心に残る、清純な歌です。

たんぽぽの穂が守りゐる空間の張りつめたるを吹き崩しけり

◎この歌人は清純なものを求め守りたいという願いと、汚し壊したい暴きたいという小悪魔的な心を、歌にします。わたぼうしを歌う前半は、とても繊細な感性で詩句を選んでいます。「吹き崩しけり」という意外性、逆転に、驚きと心の表情の発見がある歌です。

舞ふ雪とその影と地に重なれり子音を追ひて母音降るごと

◎歌人の感性の繊細さがふるえる美しい歌。「雪」と「その影」を感じとる眼差しは素晴らしいと思います。その情景に重ねる比喩「子音を追ひて母音降るごと」はとても美しく、言葉の音楽、調べに敏感な歌人だからこそ、生み出せた音楽だと感じます。雪の降る詩想に言葉の音楽がまじりあい降り注いでくるようです。

叱られて泣きゐし吾子がいつか来て我が円周をしづかになぞる

◎母親ならではのわが子との微妙な距離感と心の交わりをとらえた歌。泣き止んでから無言で母親に手を触れながら周りをまわる子どもの姿が、かわいらしく、詩句にも愛情が沁みていて心に響いてきます。

いのちよりいのち産み継ぎ海原に水惑星(みづわくせい)の博動を聴く

◎誰もの故郷である海、豊かな海をたたえるこの星を、みずみずしく歌っています。歌集タイトルであることから歌人の思い入れの強さも感じとれる「水惑星(みづわくせい)」という詩句はこの星の姿をとらえた美しい造語で、この一言で海の星のイメージを呼び覚まします。「いのち」「産み」「博動」という詩句も互いにこだましあっています。空間と拡がりの大きさのなかに息づく生命を感じさせてくれる美しい歌です。

をり鶴のうなじこきりと折り曲げて風すきとほる窓辺にとばす  『中庭(パテイオ)』1990年・平成2年

◎この歌の命は「こきり」という詩句で、音と表象が一体となって読んだ瞬間に生まれ出ます。とても印象的です。折鶴が好きな人の心に素直な共感を響かせる歌です。

地球儀の底もちあげて極地とふ終(つひ)の処女地を眩しみて見つ

◎この歌の命は「眩しみて見つ」にたたえられています。その詩句の泉からあふれだす響きになにを感じ想うかは、読者の自由です。私には、星と極地への想いの底流に、自らの処女であった年月と経てきた時間への想いが、響いているように聴こえます。

 私はこの歌人の純な抒情の初期の歌が好きです。この後、もう少し斜交いの悪魔的な眼差しで批評性や皮肉の表情をのぞかせる歌も歌っていますが、プラトニックなひかりに眼を向けた横顔の歌が美しいと感じます。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

 次回も、美しい歌の花をみつめます。

 ☆ お知らせ ☆
 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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