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武下奈々子。松平盟子。歌の花(四〇)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

● 武下奈々子(たけした・ななこ、1952年・昭和27年香川県生まれ)。

軍艦と烏賊釣り船がさりげなく行き交ひてゐる日本海です  『樹の女』1988年・昭和63年

◎この歌は、冒頭の「軍艦」という詩句のいかめしさと重さ、鈍い黒、戦争・紛争のイメージの波紋と、烏賊釣り船の生活感が交錯し拡がった後、最後に置かれた口語の丁寧語の詩句「です」で、歌の音調、色合いが和らげられ、日頃親しんでいる普段の日本海の風景に一変します。
 そのギャップの大きさそのもので、この歌が問題提起していると感じさせます。軍艦は異質のものという感覚です。政治的なものが心に影をおとし感じ考えるのは、眼を見開き生きていれば自然なことです。伝えずにはいられないなら、歌だからこそ伝えられる姿で響かせるとき、心から心へ感動のふるえを手渡してくれます。
 主義や主張のための言論や、政策論議の論理的な議論は、散文であって、歌とは言葉の質が違います。この切り分けの認識は、詩歌を創るものにとって大切だと私は考えます。

淡く濃く彩りかへてゆくはるの山こゑあげてわれも芽吹きたきものを

◎この歌の特徴は、音数律57577の最後の7音を11音として4音も字余りとしていることです。字余りの分だけ
、音がゆっくり、一音一音長く、終わらず続いて心に残るので、「芽吹きたきものを」という願いの印象が強まって心に響きこだまします。春の山の芽吹くみどりのゆたかさへの共感をとても美しく歌っていると思います。

● 松平盟子(まつだいら・めいこ、1954年・昭和29年愛知県生まれ)。

萩ほろほろうすくれなゐのちりわかれ恋は畢竟(ひつきよう)はがれゆく箔  ◆『シュガー』1989年・平成元年

◎前半と後半の子音H音の息のはかなさが調べの風に浮かんでいるようです。「萩ほろほろHagiHoroHoro」「畢竟はがれゆく箔HikkyoHagareyukuHaku」。「ほろほろ」や「ちりわかれCHIRIWAKARE」などの詩句の印象的な音からも、この歌人が言葉の調べに鋭敏な感性により創作していると感じます。

ロゼ・シャンパンさやさやさやと発砲す生まれる星と死ぬ星の音  『プラチナ・ブルース』1990年・平成2年

◎この歌の詩句も音が美しく響きます。「シャンパンSHANPAN」、SHA音とPA音、二つのN音のリズムで、泡が弾けているように聴こえます。「さやさやさやSAYASAYASAYA」のSA音のYA音、「発砲すHAPPOUsu」のHA音、PO音と変奏されながら離れて音の泡が弾け浮かび上がっています。
 後半も、「生まれる星」と「死ぬ星」の意味の対比とHOSHIの音の繰り返し、「とTO」と「NOOTO」も母音O音の重なりとTOの脚韻が、とても音楽的です。軽やかなピアノ曲のような美しい歌です。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

 次回も、美しい歌の花をみつめます。

 ☆ お知らせ ☆
 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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