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塚本邦雄。河野愛子。安立スハル。岩田正。歌の花(十八)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。
 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

■ 塚本邦雄(つかもと・くにお、1922年・大正11年滋賀県生まれ)。

ここを過ぎれば人間の街、野あざみのうるはしき棘ひとみにしるす  ◆『水葬物語』1951年・昭和26年
◎不思議な美しさの響く歌です。ドラマの展開のよう情景描写のようでもあり、心象風景であり想念に流れ込む景色のようでもあり、多様な感じ方ができる歌となるよう、意識的な創作者であるこの歌人は言葉を選んでいます。

夢の沖に鶴立ちまよふ ことばとはいのちを思ひ出づるよすが  『閑雅空間』1977年・昭和52年
◎上句のイメージ、浮かび上がる情景と、下句の想念との間に、一文字分の余白、間(ま)があり、この断裂の受けとめ方、解釈は読者の自由に委ねられています。「夢の沖」に「いのち」を、「立ちまよう」「鶴」に「ことば」を、重ね溶かしこんでいるように、私には感じられます。意識的な構造、構成の歌です。

母に逅はむ死後一萬の日を閲(けみ)し透きとほる夏の日の母にあはむ  『不變律』1988年・昭和63年
◎亡き母を思慕するなつかしく美しい歌。初句と最終句に「母に逅はむ」「母にあはむ」と繰り返し情感を高めています。二度目をひらがなにしているのは、遠いかすむようなはるかさにあっていると感じます。

● 河野愛子(こうの・あいこ、1922年・大正11年宇都宮市生まれ、1989年・平成元年没)。

やがて君は二十となるか二十とはいたく娘らしきアクセントかな  『ほのかなる孤独』初期作品
◎歌人の言葉の響きそのものへの感性と関心がそのまま歌になっています。「二十(はたち)HATACHI」という響きに、弾むもの、膨らんでゆくもの、を聴きとった言葉、「娘らしきアクセント」はいい詩句だなと感じます。

優越の言葉また劣等の言葉あり柩(ひつぎ)の中より人は起き得ず  『光の中に』1989年・平成元年
◎感慨にちかい想念の歌です。短歌としてのまとまりを、「優越」と「劣等」の対比、「の言葉」の繰り返し、「あり」と「より」の変化した呼応、「ひつぎHItsugi」と「ひとHIto」の頭韻が与えています。

● 安立スハル(あんりゅう・すはる、1923年・大正12年京都市生まれ)。

島に生き島に死にたる人の墓目に花圃のごとく明るむ  『この梅生ずべし』以後
◎情景が鮮やかに立ち上るような歌です。音調は導入部は生死感の歌にあった母音イI音と子音SH音とH音が主調の引締った詩句が続きます。「SHImanIIkI SHImanISHInItaru HItono」。「墓」から転調し、墓でありながら明るいイメージを醸しだしているのは意味とともに音も、明るい母音アA音が「墓hAkA」に続いて「花hAnA」「明AkA」に響いているからです。

■ 岩田正(いわた・ただし、1924年・大正13年東京生まれ)。

在りし日もかなしと思ひ死してなほかなしかりけり母といふもの  ◆『郷心譜』1992年・平成4年
◎とても好きな歌です。かなしは「愛(かな)し」、愛する思いと哀しみ、悲しみが、混ざりあった、海のように深い感情です。母に抱く思いにこそ、ふさわしいと私も思います。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

 次回も、美しい歌の花をみつめます。
 ☆ お知らせ ☆
 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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