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岡野弘彦。山中智恵子。歌の花(十九)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。
 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

■ 岡野弘彦(おかの・ひろひこ、1924年・大正13年三重県生まれ)。

うなじ清き小女ときたり仰ぐなり阿修羅の像の若きまなざし  ◆『冬の家族』1967年・昭和42年
◎少女との微妙な感情と距離が美しい歌。冒頭の詩句「うなじ清き少女」で清純な世界に惹きこまれます。「清きKiyoKI」と「きたりKItari」の「きKI」音も爽やかな音を奏で、「きたりkitARI」と「仰ぐなりaogunARI」は脚韻してリズムの波を生んでいます。そこからは母音A音が主調音を奏で「AogunAri AsyurAnozouno wAkAkimAnAzAsi」明るく熱く詩情を染めています。

あたらしく得し恋をわれに聞かせつつ海よりも暗き瞳してゐる  ◆
◎恋と愛の微妙な揺れる感情が美しい抒情歌です。とくに「海よりも暗き瞳してゐる」はとても好きだなと感じる詩句です。

友らみな身を焼く願ひもちゐしが遂げず過ぎにきたたかひの日に
◎主調音は母音イI音で、調べの要所で旋律を引き締めています。特に「願ひnegaI」「もちゐしmochIIshI」「過ぎにきmochIIkI」「たたかひの日にtatakaInohInI」。その調べが戦争で亡くなった友を思う無念、苦味を滲ませています。

辛(から)くして我が生き得しは彼等より狡猾なりし故にあらじか
◎自らを省みて、攻め、問うる感情の強さが、子音K音とG音の硬い音、とくに「かKA」の音に込められて響きます。「KAraKushite waGaiKieshiwa KArerayori KouKAtsunarishi yueniarajiKA」。

しづかなる睦月の海に漕ぎいでて海、そらとなる涯を見むとす  『滄浪歌』1972年・昭和47年
◎私も好きですが、この抒情歌歌人も海をとても美しく歌います。この歌は「海、」と息を止め、続けて「そらとなる涯」と「海、そら」と並べた詩句が、海と空の「あわい」のイメージを立ちのぼらせます。詩情の海に浮かび、そのあわいに向かい漕ぎ進んでいる思いになります。

すさまじく晴れきはまりし秋の海死なむと誘ふ女と見てゐる  『海のまほろば』1978年・昭和53年
◎海の波の揺れ動く美しさは、恋愛の感情の波にとても近しく、この歌人が恋と愛を歌う抒情歌人であるのは、とても自然に感じます。海は生と死もまた想わせます。海のきらめきを前にした鮮やかな情景に、言葉でひろえない微妙な感情が溶け込んでいる詩情を感じさせる歌です。

たましひの澄みとほるまで白鳥の舞ふを見てゐて去りなむとする  『天(あめ)の鶴群(たづむら)』1987年・昭和62年
◎「たましひ」という詩句にこの歌人らしさを感じます。「白鳥」と自然に結びつくのは、古事記以来の日本文学の伝統を踏まえていると感じます。心が洗われるような情景が浮かんでくる美しい歌です。

心中をとげし二人をさまざまに人は言ふとも彼らはいさぎよき
◎恋や愛におよぶ価値など他に何もなく殉じることを尊いと感じる、抒情歌であることをあからさまにする想念のような歌だと思います。

ごろすけほう心ほほけてごろすけほうしんじついとしいごろすけほう  ◆『飛天』1991年・平成3年
◎ふくろうの鳴き声「ごろすけほう」を三回繰り返し、心情を織り込んだ歌。鳴き声だけに音調の歌で「ごろすけほうgOrOsukehOu」の母音オO音が「心ほほけてkOkOrOhOhOkete」を含め全体の主調音です。子音H音との「ほHO」の音も印象深く響きます。「しんじついとしい」と歌人の思いが高まる箇所だけ調べも転調し「SHInjITSUItoSHII」と、母音はイI音、「しSHI」「じJI」「つTSU」と引締った息を吐く強い音で浮き出されています。


● 山中智恵子(やまなか・ちえこ、1925年・大正14年名古屋市生まれ)。

さくらばな陽に泡立つを目守(まも)りゐるこの冥き遊星に人と生れて  ◆『みずかありなむ』1968年・昭和43年
◎この歌を活かしているのは「陽に泡立つ」という詩句です。詩歌が歌人の個性的な感受性の感動を、言葉で伝える芸術だということを教えてくれる、とても美しい表現だと思います。さくらばなも人もこの遊星にともに生まれて咲いている、という思いに私は共感します。

くらげなす漂ひゆくは一生(ひとよ)生き人を殺さぬ文かきしこと 『神末』1986年・昭和61年
◎作者の虚無感、無常観、諦念のような詩情が漂う歌です。「くらげなす」という詩句が漂うくらげのイメージを呼び起こして情感をゆらめかせます。「人を殺さぬ文」という詩句に、この歌人の矜持と文学、短歌への思いが込められていて、ともにゆらめいている思いがします。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

 次回も、美しい歌の花をみつめます。
 ☆ お知らせ ☆
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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