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大西民子。前登志夫。歌の花(二〇)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

● 大西民子(おおにし・たみこ、1924年・大正13年岩手県生まれ、1994年・平成6年没)。

枕木に雪積もりゐし夜の別れ呼び戻されむことを願ひき  『無数の耳』1966年・昭和41年
◎雪の夜の駅での男女の離別の情景が鮮やかに浮かびあがります。女性の思いの切なさが美しく心染まります。

眉墨を刷(は)きてやらむにせともののやうにつめたし死人の頬は  ◆『雲の地図』1975年・昭和50年
◎詩句「せともののやうに」に、もう命もたない、こわれやすいものとして指先に触れる感覚が伝わってきます。思い知らされ、最後にあきらめのように投げ出される詩句「死人の頬は」に嘆きが悲しく心に響きます。

われの死を見ずにすみたる妹とくり返し思ひなぐさまむとす  ◆
◎静かに愛する思いが響く鎮魂の歌。自らに言い聞かせる心の思いをそのまま声にしたような、とてもまっすぐな表現が、心にそのまま受け渡され広がる思いがします。

このままに埋(うも)るるもよし家ぐるみひしひし雪に包まれてゆく  ◆
◎詩想とイメージが溶け合うとともに、言葉の調べもゆたかな詩情を奏でています。「このkOnO」、「ままmAmA」、「るるrUrU」と母音オO音、アA音、ウU音をそれぞれ二音並べ変奏し音の波が揺れるようです。続く主調音は母音イI音と子音と織られた「しSHI」、「yoSHI IegurumI hISHIhISHIyukInI」、イメージの白の色調とよく溶けています。「雪YUKI」と「ゆくYUKU」の耳に溶けるやわらかな「ゆYU」音もイメージの雪そのもののようです。静かな美しい歌だと感じます。

まろまろと昇る月見てもどり来ぬ狂ふことなく生くるも悲劇  ◆『風水』1981年・昭和56年
◎「狂ふことなく生くるも悲劇」、心に刻まれ、忘れられない詩句です。生き抜くことで初めて得られる、深く強い感慨の言葉に心打たれます。冒頭のやわらかな「まろまろ」という響きに月のひかりが溶け響いています。調べの波の音色の波頭は子音K音が母音と織り交ぜられた「きKi」「くKu」「こKo」で、その鋭い音が、詩想の中心にある「狂う」「悲劇」を強め奏でています。

■ 前登志夫(まえ・としお、1926年・大正15年奈良県生まれ)。

けものみちひそかに折れる山の上(へ)にそこよりゆけぬ場所を知りたり  ◆『子午線の繭』1964年・昭和39年
◎民話的な世界、異界、あの世といったものへの想いを呼び起こす不思議な魅力をもつ歌です。調べのうえでは、「山の上」を「やまのへ」と読ませる「へHE」の息がかすれる弱い一音が、その不思議な場所へと誘っています。

暗道のわれの歩みにまつはれる蛍ありわれはいかなる河か
◎この歌の蛍も、人魂や誰かの想いといった非日常的なひかりを放ちながら、飛んでいます。その象徴性をおびさせているのは、「まつはれる」と「われはいなかる河か」、これらの詩句です。

行け、若葉 さやげる山の夏こだまひるがへるまのかなしみにして  『樹下集』1987年・昭和62年
◎冒頭の詩句「行け、若葉」がとても印象的な美しい歌です。詩句「さやげる」に、次の柿本人麻呂の歌が、意識の音楽となって音のない清流のように流れます。
小竹(ささ)の葉はみ山もさやにさやげども我は妹思ふ別れ来ぬれば
詩句「夏こだま」も美しく、それ以降すべてひらがなにしていることも、透明感のある流れを生みだしています。

こがらしの過ぎたるのちを蝶しろくたかだかとゆく蒼穹(あをぞら)なりき
◎この歌には、心の首を傾けさせ空を見上げさせるちからがあります。見あげる心の目に、蝶の白と蒼穹の青が、鮮やかな色彩で沁みます。色彩とともに、心に空の深さと広さを見つけさせてくれる歌です。

さくら咲くゆふべとなれりやまなみにをみなのあはれながくたなびく  ◆『青童子』1997年・平成9年
◎音楽のような歌です。冒頭「さくら咲くSAKUrASAKU」明るい母音アA音を三音重ね、「さくSAKU」を重ねた快いリズムで情景をいっきに拡げます。続く詩句から転調して、調べの主調音は子音Nと子音Mのなだらか音と子音Yの柔らかな音で、それぞれ母音と織り交ぜられ変化し流れます。「YUubetoNAreri YAMANAMINI oMINANOaware NAgaKUtaNabiKU」。末尾の「くKU」音の軽い押韻も、遠く冒頭の「saKUrasaKU」と木魂していて、静かな美しい調べの歌です。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

次回も、美しい歌の花をみつめます。

 ☆ お知らせ ☆
 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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