出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。
出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。
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藤井常世(ふじい・とこよ、1940年・昭和15年東京生まれ)。
よぢれつつのぼる心のかたちかと見るまに消えし一羽の雲雀 ◆『紫苑幻野』1976年・昭和51年
◎ひばりの飛翔の軌跡に、眼にはみえない「心のかたち」を見、感じとっています。「見るまに消えし」と見失ったことで逆に歌の中で、一羽の雲雀の姿をどこに消えたんだろうと、心は見つめ探し続けます。
いちにちを降りゐし雨の夜にても止まずやみがたく人思ふなり ◆
◎降り続く雨に、夜までのいちにちの時間の流れが重なって感じられ、詩句「止まずやみがたく」はその流れを受けつつ、人を愛する思いにも流れ込み、双方を情感深くぬらしています。美しい流れそのものが歌になっているようです。愛を歌う抒情歌人だと感じさせる歌です。
雨に係る冒頭の詩句「いちにちを降りゐしIchInIchIo furIIsI」は母音イI音の細い音をつらね、「ちCHI」と「しSI」も滴が弾けるような音で、雨の情景・イメージに溶け込んでいます。
あひ逢はば告げむことばの数々をめぐらして夜半の心冴えくる ◆
◎愛する人を想い眠れない深夜のもの想いが心にゆれひろがります。「あわばawaBA」と「ことばことBA」は弱くかすかな韻の呼応をしています。詩情の高まりの詩句「心冴えくるKoKoroSaeKuru」は、子音K音とS音の鋭い音が意味とよく合っていて、母音オO音の3つの連続、母音ウU音の2つの連続が心に響くリズムを生んでいます。
胸におくひとつのうつはあふれたる水のごとしよ不意に思ひは ◆
◎情感深い歌、「思ひ」は限定していませんが、愛する思いがふさわしく感じます。最後に「不意に」「思ひは」と、三音、三音の繰り返す、倒置が、主題の詩句「思ひ」を強め、心に響かせ続けます。
いちめんにすすき光れる原にゐて風に消さるることば重ねむ ◆
◎言葉に浮かぶイメージ、情景が、そのまま心象風景となっています。「風に消さるることば重ねむ」という詩句には、ことばを歌う歌人の静かな意思が沁み響いていると感じます。
寡黙の時ややながきのちおちてくる雪のやさしさ音を言ふなり ◆
◎口を閉じ雪のなかで、雪と会話している、感受性のふるえる美しい歌です。
雪はくらき空よりひたすらおりてきてつひに言へざりし唇に触る 『草のたてがみ』1980年・昭和55年
◎直接歌われてはいないけれど、愛する人とそばにいながら想いを伝えられなかった時間へと拡がっている歌だと感じます。
「唇に触るkUchIbIrUnIfUrU」は母音ウU音と母音イI音がきれいな音楽を織りなしています。最後の詩句「触るFURU」は、唇に「触れる」意味とともに、歌の初句の「雪」が歌の全体をつつんで「降る」意味にも掛けられていて、詩想が重層して美しく響いています。
気を裂きて笛は鳴りいづこの世ならぬものを呼ばむと息あつくする ◆『氷の貌』1989年・平成元年
ふところに抱かれぬくもり唇に触れてはうるほふ笛のあはれや ◆
うつし身を出で入る息の笛の音のあはれ自然(じねん)にうたへわが歌 ◆
◎これら三首の歌は、笛をとおして、息すること、生きること、歌うことに背景にある死ぬことにまで、想いを馳せさせる情感が静かに深く響きます。二首にある詩句「あはれ」そのもの、体温のある「ああ」という深い感動が伝わってくる美しい抒情歌です。
出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)から。
次回も、美しい歌の花をみつめます。
☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年
3月11日、
イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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