出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。
出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。
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辺見じゅん(へんみ・じゅん、1939年・昭和14年富山市生まれ)。
いづかたの春のくれなゐそのむかし男は女のために死せりき ◆『水祭りの桟橋』1981年・昭和56年
◎「いづかたの春のくれなゐ」は意味がとりづらいですが、おぼろな暖かさの紅のイメージが歌全体を染め上げる感覚を受けとめればいいと思います。「そのむかし男は女のために死せりき」、何かに取材した詩句とも、より広い感慨とも、どちらとして受けてもよいと思います。心に波紋をひろげるような詩句です。
灯のいろの燈籠海に咲きつぎて波に遅れし父流すかな ◆
◎情景が鮮やかに浮かぶ美しい歌。亡き父への鎮魂の想いが静かに心に響きます。
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岸上大作(きしがみ・たいさく、1939年・昭和14年兵庫県生まれ、1960年・昭和35年自死)。
海のこと言ひてあがりし屋上に風に乱れる髪をみている ◆『意思表示』1961年・昭和36年
耳うらに先ず知る君の火照りにてその耳かくす髪のウェーブ
◎恋する感情を、女性の髪に託している歌。初々しい青春の清らかさを感じます。
ひっそりと暗きほかげで夜なべする母の日も母は常のごとくに
◎母への愛(かな)しみの歌。愛する想いと悲しく感じる想いが、ほかげにひっそり灯り、揺れていて、心に響きます。
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玉井清弘(たまい・きよひろ、1940年・昭和15年愛知県生まれ)。
息ひきし父の半眼の目を閉ずる母の指花にふれいるごとし ◆『久露』1976年・昭和51年
棺にうつ釘のひびきの掌にあふる死者なる父の重さつたえて
◎感性の繊細な歌人を感じます。一首目は、「花にふれいる」と見つめ感じ詩句を咲かせる感性、二首目は「ひびきの掌にあふる」と触感を感じ詩句にふるわせる感性、悲しみの時を掬い上げ、歌として揺らめかせ伝えてくれています。、
ゆうぐれに澄む茄子畑かなしみのしずくとなりて茄子たれており 『風筆』1986年・昭和61年
摘みし芹さかだて水に振りたればつよき韻律のさざなみあふる
◎この一首目も茄子を「かなしみのしずく」ととても繊細に美しく感じとります。
二首目も芹と水の動きを「韻律のさざなみ」と鮮やかな詩句で捕らえます。焦点にある詩句「芹(せり)Seri」、「さざなみSaZAnami」の子音S音のかすれる息の音が、調べを澄ませているように感じます。
ねむりつきてぐにゃぐにゃの子を抱きうつす青葉の風のとおる畳に
◎この歌では、眠った子どもを抱き上げた感覚を、印象深くもっとも適格な詩句「ぐにゃぐにゃの」と歌います。心の感受性もゆたかな歌人だと思います。
出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)から。
次回も、美しい歌の花をみつめます。
☆ お知らせ ☆
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