『遺愛集』島秋人著
(1967年、東京美術)から、私の心に特に強く響いた歌を30首紹介させて頂きます。
当初数首から多くて10首の紹介を考えましたが、これ以上削れませんでした。生きることへのあふれだした思い、愛(かな)しみと愛(いと)しさと祈りが織り込められた歌に、心をうたれます。
*出典は、上記の新装版で、歌集は1960年(昭和35年)から処刑執行の1967年(昭和42年)まで時系列に編まれています。同著には
手紙も編み込まれていて、彼の被害者と被害者の関係者への偽りのない贖罪の心と、彼を見守る優しい人たちとの心の交感が伝わってきます。
*歌の掲載されたページを参考のため歌の前に記しました。
028 たまはりし処刑日までのいのちなり心素直に生きねばならぬ
028 被害者に詫ぶべき言葉なき文を綴りては捨て処刑待つのみ
036 賜りしお盆の花はわづかなる陽の射す方にみな向きて活く
042 わが罪を証人台に泣きたまひ泣きたまひつつ詫びくれし老父(ちち)
056 この手もて人を殺(あや)めし死囚われ同じ両手に今は花活く
060 被害者に詫びて死刑を受くべしと思ふに空は青く生きたし
063 良き事は少しのままに過ぎたれど憶へば愛(かな)しきわが少年期
063 ほめられしひとつのことのうれしかりいのち愛(いと)しむ夜のおもひに
088 一輪の菜の花活くれば子の頃の憶ひが獄(ひとや)にひろがりてゆく
092 雨の灯に憶ふことみな優しくて詫びて済まぬ身を詫びつつ更けぬ
093 父老いてくり返し同じことを云ひ言葉なきとき泣きたまひけり
098 亡き母に叱られたくてまみつむりひくく飯皿ならしてみたり
099 安らかに笑みて受くべし殺(あや)めたる罰受くる日の何日(いつ)に来るとも
110 雪降れば雪に愛(かな)しき憶ひ湧く死すべきものの安けさにゐて
115 極悪事詫びつつなほも愛しみは日日にあふるる自戒を超えて
116 生きの日の素直を悟(し)りて伝ひゆく涙は微笑むほほに愛(かな)しき
132 母よりと手紙(ふみ)のをはりに記されて殺(あや)めし罪の重きを悟(し)りぬ
132 そそらるる絵心愛(かな)し金網(あみ)洩るる陽がフリージャの花にさしきて
153 うれしさの微笑み湧くに愛(かな)しみて愛(いと)しみながら眠り入りたり
157 よく生きることが己れの日日の詫びとも思ひひと日よく生く
163 汚れなきいのちになりて死にたしと乞ふには罪の深き身のわれ
188 にくまるる外に詫ぶすべ今はなく母を殺(あや)めし罪重く知る
198 いのちあればかくも愛(かな)しく亡母(はは)に似て笑む唇(くち)写る水鏡あり
199 君を知り愛告ぐる日の尊くていのち迫る身燃えて愛(いと)ほし
199 触れ得ぬも君愛(いと)ほしくこゑひくく呼ぶ夜を獄庭(には)にこほろぎは鳴く
199 二日程眠れぬ夜あり愛(いと)ほしく君のわれ欲(ほ)るカナの手紙(ふみ)来て
200 君とわれ触れあふ日なき愛に燃え心添ひつつ清められたり
200 燃えるとも濡れるともある盲(めし)ひ病む君の可愛ゆきカナの手紙(ふみ)読む
200 むつみあふことなき愛に秘花(はな)濡れて素直に君は妻と云ひ添ふ
201 詫ぶべしとさびしさ迫るこのいのち詫ぶべきものの心に向くる
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