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太田水穂。会津八一。歌の花(二)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性的な歌人たちの歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせた歌人を私は敬愛し、歌の魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

■ 太田水穂(おおた・みずほ、1876年・明治9年長野県生まれ、1955年・昭和30年没)。

君が手とわが手とふれしたまゆらの心ゆらぎは知らずやありけん  『つゆ草』1902年・明治35年
すさまじくみだれて水にちる火の子鵜(う)の執念の青き首みゆ  『鷺鵜』1933年・昭和8年

◎一首目は、鉄幹と同時代の、恋の歌。上句は、「手と」「手と」が男と女の微妙な距離を浮かび上がらせつつ、音の繰り返しが快く、続く「たまゆら」「心ゆらぎ」の「ゆら」の音が、意味の上での微妙な心の揺れと、よく溶け合っています。最後の「知らずやありけん」という強い問いかけも、異性を思う切ない思いの強さを響かせていて、美しいと感じます。
◎二首目は、鵜飼の歌。かがり火を灯す清流で、鵜に魚を呑み込ませ吐きださせる小舟での漁の情景が、とても鮮やかです。「みだれて水にちる火 mIdarete mIzuniI chIru hI」はかくれた子音との組合せで変奏する子音Iイ音の鋭さが臨場感、緊迫感を高めています。後半の「鵜の執念の青き首」という強くふさわしく言い換えられない詩句を見出したことで、この歌に高まりゆくエネルギーが生まれたのだと、私は感じます。

■ 会津八一(あいず・やいち、1881年・明治14年新潟市生まれ、1956年・昭和31年没)。

ひかり なき とこよ の のべ の はて に して なほ か きく らむ やまばと の こゑ  『寒燈集』1947年・昭和22年
すべ も なく やぶれし くに の なかぞら を わたらふ かぜ の おと ぞ かなしき

◎一見してわかるように、独特の表記法を生み出した詩人です。私自身は、表現方法を模索し試み生み出そうとする芸術家の意思が好きだし、失わずにいつも創作を試みています。
 そのうえで、この歌人の試みについて次のように感じます。
 良い点は、①ひらがなという表音文字だけにしたことで、一音一音をより敏感に伝え感じとれること。また、②ひらがなの文字のやわらかな字体・かたちが、やさしさ、やわらかさ、澄んだ雰囲気を浮かべだしていること。
 悪い点は、①助詞「の」まで含め詩句一語一語ごとに一文字間を空けるので、詩の流れが「ブツ切り」になり、音の流れ旋律が失われている。②歌人が作歌するとき、読むときにも、このように「ブツ切り」には息を吐いたり止めたりしないから、数多い字間は呼吸の「間(ま)」となっていないため、作為、人工的に感じてしまう。言葉の音楽性、流れと間を損ねていることで、この詩形は美しいとは私には感じられません。
 ひらがなの字体のやわらかさは美しいのだから、三十一文字をすべてひらがなで連ねて息の「間」は読むものの自然に任せるほうが、詩形として美しいと私は思います。その場合も、詩想が表記法のやわらかさと溶け合う内容でないと失敗すると思いますが。
◎一首目は、暗い野辺の果てに響くやまばとの声が聞こえてくるようです。でもこの詩形だからこそ詩想がもっともふさわしく表現されている、とまではいえないと感じます。
◎二首目は、直情の歌。この歌は、敗戦のかなしい、むなしい思いが、詩形のひらがなの、風に飛んでしまうような弱さ、軽さと、切れ切れに断ち切られた、とつとつとした心と、あっていて、詩想と詩形がいったいに溶け合い、詩情を深め強めていて、美しいと感じます。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

 次回も、美しい歌の花をみつめます。

 ☆ お知らせ ☆
 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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